自国優先主義で株波乱 長期上昇相場は続く(藤田勉)一橋大学大学院特任教授

グローバリズムを促進したもう一つの要因が、度重なる中東の危機である。戦後に中東で油田開発が進み、先進国は原油供給面で依存度が高まった。1973年の第4次中東戦争を契機に第1次石油危機、79年のイラン革命をきっかけに第2次石油危機が発生した。原油価格の高騰、世界経済の混乱に対応するために主要国は国際協調を迫られた。その後も中東では紛争が続き、湾岸戦争(91年)とイラク戦争(2003年)では米国を中心とする多国籍軍がつくられた。

「世界の警察官」をやめた米国

ところが21世紀に入って以下の3つの理由から、世界的な国際協調主義の流れは大きく転換した。第1に冷戦の終結である。1991年にソ連が崩壊し核戦争の脅威はほぼ消えたため、各国が結束する必要性は低下している。例えばロシアが英国に向けて核ミサイルを発射する可能性は現在ゼロに近い。安全保障の理由から英国がEUに残留する理由は乏しい。

第2に中東の重要性の低下である。2010年代のシェール革命によって米国は世界最大の産油国に返り咲いた。さらに紛争の原因となったイラクのフセイン政権、リビアのカダフィ政権はいずれも崩壊し、国際テロ組織アルカイダの指導者ビンラディンは殺害された。米国が中東で大規模に軍事介入する必要性は大きく低下している。

これらを背景に13年にオバマ大統領は「米国はもはや世界の警察官ではない」と宣言し、海外における軍事力の本格的な縮小を始めた。つまり米国の孤立主義への回帰はトランプ大統領が始めたのではなく、オバマ政権時代に始まっていたのである。警察官がいなくなれば、必然的に治安は悪化する。

世界的に国際協調主義の流れが転換した第3の理由は中国の台頭である。中国は30年前後に米国を抜いて世界最大の経済大国になると予想される。広域経済圏構想「一帯一路」を掲げてアジアやアフリカに進出し、ハイテク分野において米国の国益と激しく衝突する。

2020年代に向けた上昇相場の過程

このように世界が自国優先主義に向かいつつある以上、各国の利害衝突が激化することは避けられない。中国、イラン、北朝鮮などを巡る地政学リスクが株式市場の懸念材料になる状況も続くだろう。

しかし筆者は、世界株は20年代に向けた上昇相場の過程にあると考えている。これまで相場を支えてきた要因に大きな変化はないからだ。まず足元の金融市場の動揺に対して主要国の中央銀行は金融緩和で対応しつつある。さらにミクロ面では、世界的にハイテク企業の利益成長が期待できる。(1)人工知能(AI)革命(ロボット、自動運転、フィンテックなど)、(2)シェアリングエコノミーや、定額料金を払って商品やサービスを継続利用する「サブスクリプションモデル」、(3)次世代通信規格「5G」サービス、クラウドコンピューティングなどの技術――の発達が主な理由である。世界の株式相場は乱高下しながらも米国のハイテク株を中心に上昇する公算が大きいだろう。

藤田勉
一橋大学大学院経営管理研究科特任教授、シティグループ証券顧問、一橋大学大学院フィンテック研究フォーラム代表。経済産業省企業価値研究会委員、内閣官房経済部市場動向研究会委員、慶応義塾大学講師、シティグループ証券取締役副会長などを歴任。2010年まで日経ヴェリタスアナリストランキング日本株ストラテジスト部門5年連続1位。一橋大学大学院修了、博士(経営法)。1960年生まれ。
近づくキャッシュレス社会
ビジネスパーソンの住まいと暮らし
近づくキャッシュレス社会
ビジネスパーソンの住まいと暮らし