衝撃写真、クジラがアシカを「丸のみ」 その真相

日経ナショナル ジオグラフィック社

2019/8/24

今回の事故が起きた原因を知る者はいないが、アシカが「のみ込まれた」という報告は衝撃的だ。実際には、今回はどちらも無事だった可能性が高い。

ザトウクジラは立派な体に似合わず、オキアミなどのプランクトンのほか、イワシ、ニシン、サケの稚魚といった小さな魚をろ過摂食する。小さな獲物を好むということは、大きな動物をのみ込むのに適した体を持っていないということだ。安静時の喉の幅は人間の拳ほどしかない。食道は少し伸縮しても、直径30~40センチが限界だ。

米アラスカ州のグレイシャー湾とアイシー海峡でクジラの排せつ物を採取、分析した研究は、鳥ですらめったにクジラの食道を通らないと示唆している。たとえ食道を通過しても、ほとんど消化されることはなく、「鳥の塊」になって排出されると、マクミラン氏は説明する。

「クジラの口などプールのようなもの」

ランジフィーディングを行ったクジラは通常、海面に達すると素早く口を閉じる。口の中に魚を閉じ込めるためだ。しかし今回、ザトウクジラは口を開けたまま、海面に10秒ほどとどまっていた。クジラに詳しい解剖学者のジョイ・ライデンバーグ氏は、「アシカの奇妙な感覚」があったせいではないかと推測している。

ザトウクジラがアシカをのみ込んだ後の展開を見届けた者はいないが、クジラが口を開けている間に、アシカは無事に逃げ出したと思われる。

「体の大きいアシカにとっては、何でもないことだったと思います」と、米海洋大気局(NOAA)のカリフォルニア海流生態系プログラムを率いるロバート・デロング氏は述べている。「どちらも頑強な動物です。アシカにとっては、クジラの口などプールのようなものでしょう」

アシカがクジラを傷つけた可能性も低いと、専門家たちは考えている。捕食中に水が勢いよく流れ込んでも耐えられるように、ザトウクジラの顎は驚くほど強くできている。また人間のように、口からのみ込んだものが鼻に行くようなこともない。クジラが呼吸する噴気孔は口とつながっていないからだ。

くし状のクジラヒゲに関しても、柔軟性と耐久性に優れるケラチンからなり、曲げても簡単には割れない。180~270キロほどあるアシカの体重にも耐えられるはずだ。たとえ割れても、いずれ再生される。

「あの日、負傷したアシカを見ていないため、無事に脱出したと思っています」とデッカー氏は語る。「クジラたちも約5分後には、何事もなかったかのように餌を食べていました」

しかし、ホエールウォッチングの参加者が気持ちを切り替えるには、しばらく時間がかかるかもしれない。デッカー氏は次のように述べている。

「ザトウクジラの摂食行動は数え切れないほど見てきましたが、このような光景を見ることになるとは夢にも思っていませんでした。おそらく私にとっては、一生に一度の瞬間になるでしょう」

(文 SARAH KEARTES、訳 米井香織、日経ナショナル ジオグラフィック社)

[ナショナル ジオグラフィック ニュース 2019年8月2日付]

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