ゾウにティーポット 米史跡になった変な建造物9点
米国政府が登録する史跡。その多くが、歴史的建造物や文化的な評価が高いとして、保全目的に指定されている。制度のもとになった国家歴史保全法が成立したのは1966年10月15日。以後、9万件を超す国家歴史登録財がある。
しかし、ワシントン州にあるティーポットの形のガソリンスタンドや、ニューハンプシャー州にある米国に初めてやって来たコッカースパニエルの墓も、保全対象となる史跡だときくと、少し驚くかもしれない。ここでは、実に幅広い米国の史跡をご覧いただきたい。
「国家歴史保全法は、米国の建造環境に関する実に画期的な法律です」と話すのは、米国ナショナル・トラストの代表ステファニー・ミークス氏だ。
ただ、国家歴史保全法自体には、建物の取り壊しを止めるまでの力はない。同法の効果はむしろ、開発に関わる議論に保全活動家が「出席できる」ようにしている点だろう。それが可能なのは、この法律が建物を史跡と宣言し、州レベルでの保全事務所設置を求め、歴史的資産に影響する事業に連邦が出資する場合には審査を課すという枠組みを導入しているからだ。
ミークス氏は、「身の回りの歴史を認識し、敬意を払えば、建物の未来についてさらに活発な議論が生まれるでしょう」と続ける。
もちろん、議論そのものは楽しいものばかりではないのが現実だ。数千の史跡が国家歴史登録財となっているケンタッキー州ルイビル市の市長、グレッグ・フィッシャー氏は、「開発に伴う建設計画が発表されると、時に過剰な騒ぎになります。しかも、歴史的建造物が登録財入りしている場合もあれば、していない場合もありますから」と話す。
1980年代には、歴史的建造物の再活用を促すため税制上の優遇措置が導入された。米国ナショナル・トラストは、「歴史的建造物は女性やマイノリティーの事業主を助け、また、経済発展に大きく貢献する」とする報告書を出している。
その一方で、開発業者はそうした建造物を取り壊すほうが、保存するよりも費用対効果が高いと考えることが多いとフィッシャー氏は話す。ルイビル市は業者側の意向を認めたこともあれば、歴史的建造物の一部または全部を維持するよう骨を折ったこともある。新旧の建物をうまく景観になじませるのは難しいが、やる価値はあるとフィッシャー氏は言う。
「私は、建物の保全を芸術作品の保護と同様にとらえています。この姿勢は市の理念です」とフィッシャー氏。「ただ過去を守るだけではなく、市が向かうべき道をも表すのです」
人々が大切に思い、保存したいと願う場所は、地域のランドマークとなっている巨大なゾウから、従来の通信手段が消えつつある時代を物語る電話ボックス、さらには奴隷解放をめぐる事件が審理された裁判所まで幅広い。どの史跡も、過去と、それを継承したいと望む人々の思いを伝えている。
次ページでも、米国の意外な史跡をご覧いただこう。
(文 Gabe Bullard、訳 高野夏美、日経ナショナル ジオグラフィック社)
[ナショナル ジオグラフィック 2016年10月18日付記事を再構成]
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