キリンが緊急事態 半分近くの亜種、絶滅の危機に
野生動植物の保全状況を評価する国際自然保護連合(IUCN)は7月11日、ケニアとタンザニアに分布するキリンの亜種マサイキリンを絶滅危惧種(Endangered)に指定すると発表した。主な原因は、密猟と土地利用の変化だ。
マサイキリンの現在の個体数は推定3万5000頭。30年前に比べると、半数近くまで減少した。アフリカに生息するキリン全体の個体数も、同じ期間に最大40%減少している。
マサイキリンは象徴的な存在だと話すのは、米国生物多様性センターの国際法務責任者ターニャ・サネリブ氏。キリンのなかで最も個体数の多い亜種であり、キリンと聞いたときに思い浮かべる可能性が高い動物だ。その亜種が絶滅危惧種に指定されたことは1つの警鐘だと、サネリブ氏はとらえている。
「衝撃的なニュースでした……まさに非常ベルのようなものです。このニュースが意味しているのは、あらゆる手段を用い、キリンの国際的な保護活動を強化しなければならないということです」
さまざまな脅威にさらされるキリン
マサイキリン(Giraffa camelopardalis ssp. tippelskirchi)単独の保全状態が評価されたのは今回が初めてだ。これまではキリン種(Giraffa camelopardalis)として、「絶滅危惧種」より危険度が1ランク低い「危急種(vulnerable)」に指定されていた。キリンは9つの亜種から成り、マサイキリンとアミメキリンが絶滅危惧、ヌビアキリンとコルドファンキリンが絶滅寸前と評価されている。
ケニアとタンザニアの両国ではキリンの狩猟は違法だが、皮や肉、骨、尾を目当てに密猟が行われている。IUCNによれば、タンザニアのセレンゲティ国立公園では毎年、全個体数の推定2~10%が違法な狩猟の犠牲になっているという。社会情勢が不安定なことに加え、尾のジュエリーや骨の彫刻など、キリンの体の部位を使った装飾品の市場も生まれており、密猟は以前より増加している。タンザニアの報道機関によると、キリンの骨髄や脳を用いてHIV、AIDSを治療できると信じる人もいるという。
別の理由で命を落とすキリンも増えている。人口が増えるにしたがって動物の生息域に人間が入り込んだ結果、作物被害に対する報復や交通事故が増えているのだ。肉を食べるための狩猟も脅威となっている。
「忘れ去られた大型動物」
キリンは歴史的に、ほかの絶滅危惧種と比べて研究が進んでいない。キリン研究者のアクセル・ヤンケ氏によれば、シロサイをテーマにした学術論文は何千もあるが、キリンの論文は400ほどしかないという。アフリカに残されたキリンの数はゾウの数より少ない。
NPOキリン保全財団の設立者の一人で、共同代表を務めるジュリアン・フェネシー氏は「言ってみれば、彼らは忘れ去られた大型動物です」と語る。「悲しいことに、彼らは人々の頭から抜け落ちていました。そして、ゾウ、サイ、ライオンなどが注目されてきたのです」
キリンについて知るべきことはまだたくさんあるため、もしキリンが失われたら残念でたまらないと、サネリブ氏も述べている。例えば、キリンの循環系は複雑で、人の高血圧についての理解を深めるのに役立つ可能性がある。また、夜にハミングすることが知られているが、その理由はわかっていない。
「キリンたちは驚異的で、本当に魅力的な特徴を持っていますが、私たちはそうした特徴についてまだ何も知りません。しかし、彼らは絶滅に近づいているのです」とサネリブ氏は力説する。
キリンは9つの亜種から成る1つの種だというのが長年の総意だが、近年、遺伝的な調査から、キリンは4つの種に分かれ、マサイキリンは独立した種だとする説が浮上している。まだ広く認められてはいないが、亜種よりも種と認められた方が保全の観点では有利だと、フェネシー氏は述べている。
例えば、米国の「種の保存法」では、保全の対象となる動物は種単位で決定される。つまり、複数の亜種が絶滅の危機にあっても、米国の基準だとキリンは絶滅危惧種に当てはまらないことになってしまう。
それでも、フェネシー氏は、IUCNによる今回の評価はキリンの窮状に光を当てるものだととらえている。
「彼らが絶滅の危機にあると確認されたことをきっかけに、政府やパートナーたちと協力し、手遅れになる前に形勢を逆転できればと思っています」
(文 RACHEL FOBAR、訳 米井香織、日経ナショナル ジオグラフィック社)
[ナショナル ジオグラフィック ニュース 2019年7月19日付]
ワークスタイルや暮らし・家計管理に役立つノウハウなどをまとめています。
※ NIKKEI STYLE は2023年にリニューアルしました。これまでに公開したコンテンツのほとんどは日経電子版などで引き続きご覧いただけます。