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10万年前の東アジア最古の彫刻 旧人類にも芸術家?

日経ナショナル ジオグラフィック社

2019/8/16

ナショナルジオグラフィック日本版

中国東部で最近出土した、刻線模様が彫られた親指ほどの大きさの2つの骨片のうちの1つ。これまで東アジアで最古とされていた抽象的な刻線模様よりも、さらに数万年さかのぼる(PHOTOGRAPH BY FRANCESCO D’ERRICO & LUC DOYON)

中国東部で見つかった10万年以上前の動物の小さな骨片。それに刻まれた直線が今、古人類学者の間に波紋を広げている。意図的に彫られた抽象的な線としては、東アジアで最古の可能性があるからだ。2019年7月8日付けで学術誌「Antiquity」に発表された論文の内容が確かなら、これまで6万年前とされていた記録が打ち破られたことになる。

彫刻の作者がヒトの系統樹のどの枝に属していたのかはまだわからない。しかし、骨片の近くで見つかった頭蓋骨の化石は、種は不明ではあるものの、現生人類のホモ・サピエンスではなかったことを示唆している。

「考古学の発掘は謎だらけです。何が見つかるのか、あらかじめ知ることは不可能です」と論文の筆頭著者である中国、山東大学の李占揚氏は言う。「目に見えないほど小さなものが人々の理解を一変させることもあります」

現時点では、今回報告された線刻模様が何のために描かれたのかも、本当に何かの表現なのかもわからない。だが、私たちの古い親戚が故意に平行線を描いたことからは、彼らが複雑な行動様式や、自然との関係を持っていたことがわかる。今回の研究は、抽象的にものを考えられるヒト族(ホミニン)が、私たちホモ・サピエンスだけであるという時代遅れの観念に、さらなる異議を投げかけるものでもある。

「非常に面白い研究です」と米ウォルデン大学の考古学者レスリー・バン・ゲルダー氏は言う。「模様の意味を知る必要はありません。それを製作した人にとっては意味があったということさえ知っていればよいのです」

■故意に刻んだ証拠

問題の骨片が見つかったのは、河南省の霊井遺跡だ。論文の共著者であるフランス、ボルドー大学のフランチェスコ・デリコ氏は、この場所にはかつて泉があり、動物や、それを狙うヒト族が集まっていたようだと話す。

発掘された動物の骨片は何千点にも上り、ウマや野生では絶滅したウシ(オーロックス)、ロバなどの骨が含まれていた。多くの骨は、新鮮なうちに切断されていた。狩りがうまくいっていた証拠だ。また、この遺跡から出土した石器は、驚くほど洗練された方法で作られていたことが明らかになっている。

これらの化石を調べていた研究者らは、2016年、さらに興味深いものを発見する。彫刻だ。

何らかの意図をもって線が刻まれたとみられる、大人の親指ほどの骨片が2つ出土した。そこで研究チームは、刻まれた溝の形と配置を慎重に分析した。すると、肉を食べるために動物の死体を解体する際にできる跡とは、いくつかの点で違っていることが明らかになった。

まず、溝はかなり浅く、古くて硬くなった骨に彫り込まれていたことを示していた。また、溝は骨のくぼみにも刻まれていた。つまり、肉を切るのによく用いられていた長い刃の石器ではなく、鋭くとがった石の先端で彫っていたようだ。

この溝を刻んだヒト族に関する数々の詳細も明らかになった。たとえば、線の非対称性と彫り込みの方向から、おそらく右利きだったことがわかった。また、石器の先端が削れて丸くなってきたように思われる場所では、同じところを何度もなぞったらしく、ほぼ重なる線が何本も刻まれていた。

おそらく最も決定的だったのは、1つの骨片の顕微鏡画像で見つかった赤い色の残留物だ。化学分析の結果、この残留物には微量の酸化鉄が含まれていたが、奇妙なことに骨片の反対側では見つからなかった。すなわち、顔料は偶然に付着したものではないということだ。むしろ、骨片に刻んだ溝を目立たせるために、鉄を多く含むオーカーという黄土色の粘土をわざと溝に塗り込んだ可能性が高い。

■彫ったのは誰?

骨片の表面に刻まれた数本の直線など、たいした発見ではないと思うかもしれない。しかし、「重要なのは線そのものではなく、わざと線を刻み込んだ意図にあるのです」とバン・ゲルダー氏は説明する。これらの線は、古い骨の表面を石器ででたらめにこすってできた傷ではなく、何らかの考えをもって彫り込まれたものだと氏は言う。

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