猫と私の暮らしかた パートナー選びも意気投合!
かけがえのない家族の一員として、動物との暮らしを楽しんでいる女性は多いはず。物言わぬ彼らですが、時に心を幸せな気持ちで満たし、時に沈む気持ちにそっと寄り添ってくれます。「この子のためなら何でもする!」とまで思わせる存在かもしれません。人生に豊かな彩りを運んでくる最愛のパートナーとの物語を紹介します。
「ドゥドゥはおっとりしたお嬢さん。自分のことを人間だと思っているふしがあるんです。『下々のメンズ猫と一緒にしないで! ワタシはママが一人暮らしの時から支えていたんだから』と」
フリーランスで書籍PRの仕事をしている奥村知花さんが夫と暮らす都内の自宅は、昨年2月に引っ越してきた一軒家。大がかりなリノベーションを施した室内は、奥村さんが大好きなモロッコの雑貨やマジョリカタイル、オリエンタルテイストの家具に彩られています。そんな異国情緒漂う空間に負けない存在感を放つのが、個性豊かな3匹の猫たちです。
「猫を探しています」だと思ったら…
奥村さんが独身の時から一番長く付き合っているドゥドゥちゃんは、本名ラガドゥ。12歳のエキゾチックショートヘアです。結婚後、ドゥドゥちゃんが寂しくないようにと夫の提案で飼うことになったのが、8歳のメインクーン、ペトロくんことペトロニウス。そして、引っ越し後にやって来たラグドールのゴンゴンくん(本名はグランタルト!)はまだ9カ月。奥村さんの後を常について歩く元気いっぱいの甘えん坊です。
「ゴンゴンとは思いがけない出会いでした。引っ越してすぐの頃、手書きの『猫を探しています』という貼り紙を見つけて、これから何かとお世話になるご近所さんのお役に立てたらと思ってお訪ねしたんです。そうしたら私が文面を読み違えていて、実際は猫のもらい手を探していた。それがゴンゴンでした」
生まれた時から家に猫と犬がいたという奥村さんにとって、動物との暮らしは「いないことが考えられない」というほど当たり前のこと。24歳で最初の結婚をした時も、犬1匹と猫2匹を飼いました。「でも、元夫に彼女ができて、勝手に犬だけを連れて家を出てしまったんです」
傷心の中、残された猫たちと寄り添うように暮らしていた奥村さん。数年後に離婚が成立し、マンションで新生活を始めたある日、再び悲しい出来事に見舞われます。2匹の猫のうち1匹が、奥村さんの留守中に8階のベランダから転落し、命を落としてしまったのです。「突然の別れのショックと、かわいそうなことをしてしまった思いで立ち直れなくて、ずっと泣き暮らしていました。そうしたら、残された猫と同じ種類のエキゾチックショートヘアを、家族がプレゼントしてくれました。それがドゥドゥです」
ドゥドゥちゃんのお眼鏡にかない、再婚を決意
ドゥドゥちゃんはとっても人見知り。来客があっても、いつも離れたところでじっと見ているような子でした。ところがそんなドゥドゥちゃんが、今の旦那さんを「選んだ」というのです。
「ドゥドゥは私のボディーガードのつもりで、特に男性に対しては『ママ、この人大丈夫? 悪い人じゃない?』みたいに観察していて、誰にも心を許さなかった。それが、今の夫と付き合いだしてから急に態度が変わったんです。自分から彼に近づいて、すりすりしたりして。それを見て、『ああ、この人は間違いない』と思いました(笑)」
めでたくドゥドゥちゃんの「合格」をもらって、奥村さんは38歳の時に再婚。そうした経緯もあって、ドゥドゥちゃんはいまだに「パパっ子」なのだそうです。
妊活を経て、夫婦二人の生活を楽しもうと気持ちをスイッチ
再婚後、奥村さんは2年間妊活に臨みましたが、子どもは授かりませんでした。「妊活について、当時は精神的に追い詰められるとか、夫婦関係が悪くなるとか、今よりもネガティブな情報ばかりでした。そこまでになるのはつらいし、だったら期間を区切って、できることは何でもやろうと決めました。
一生懸命頑張った結果、駄目だったのは仕方がないこと。そこから、二人の生活をどう楽しむかというほうに気持ちを切り替えました」
子どもがいないからこそ、奥村さん夫婦が決めていることがあります。それは、「動物を擬人化するのはやめよう」ということ。
「動物が子どもと同じという気持ちはもちろん分かるんです。生命に対する責任も、注ぐ愛情も一緒。ただ、一人前にして社会に送り出さなきゃ、みたいな作業は、特に猫についてはないですよね。トイレとご飯の場所は覚えて、あとは好きに過ごしてね、と」
「人」ではなく「猫」の家族として大切にしたい
「以前飼っていた猫の最期で、すごく悔いが残っていることがあります。急性腎盂炎(じんうえん)になって、病院で『もう駄目かも』という時に、家に連れて帰ることを選びました。でも、金曜の夜に帰って日曜の朝に死ぬまでずっと苦しみ続けていたんですね。こんなにつらい思いをさせるなら、どうして安楽死を選んであげなかったんだろうか、と何度も考えました。
猫たちが病気になったらもちろんできる治療はしたいし、トイレ代とご飯代、医療費だけは困らないようにしてあげたい。だけど、治らなくてつらい思いをしているとき、そこは逆に人間ではないのだから、楽にしてあげることも考える余地を持とうと。家族だけど、『人』ではなく『猫』の家族。そう夫と話し合っています」
<お気に入りの時間>
自意識が引き起こすモヤモヤは素通りしたほうが幸せ
夢中で遊んでいたと思ったら、そんなことは3秒で忘れてぷいっとどこかに行ってしまったり、コロッと寝てしまったり。三者三様、自由気ままに過ごす猫たちから、奥村さんはネガティブな感情を素通りする力を教わっているかもしれない、と話します。
「仕事での『あの人から認められていない』とか『こんなに一生懸命やってきたのに』みたいなモヤモヤって、多くが自意識や自負からくるもの。そういうことって人と一緒に暮らしていてもありますよね。昔はそれを相手にぶつけていましたけど、最近はひたすら洗い物をして、汚れと一緒にみんな流しちゃう。だから今の夫とはけんかすることがありません。
自分の中で過剰な何かが作用しているときの感情は素通りしていいはずのものだし、そのほうがきっと幸せ。何にもとらわれず、注がれる愛情だけにひたむきな猫たちを見て、今も日々『素通り力』を修行中です」
ペトロくんのごちそう【生しいたけ】
クールなペトロくんが「ペトペト、ほら~」という奥村さんの呼び声に反応して夢中で飛びついたのは、なんと生のしいたけ。すき焼きの残りを盗み食いしたのが最初でした。「今まで猫をたくさん飼ってきましたけど、しいたけ好きの猫なんて初めてです」。他にもイチゴやゆでたブロッコリーも大好きなんだとか。この日はペトロくんにつられて、なぜかゴンゴンくんまでしいたけに吸い寄せられる初めての現象が!
(取材・文 谷口絵美=日経ARIA編集部、写真 鈴木愛子)
[日経ARIA 2019年3月26日付の掲載記事を基に再構成]
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