小型でも冷凍室たっぷり ツインバード冷蔵庫の魅力
一般的な小型冷蔵庫は「冷凍室は最低限」という製品が少なくない。しかし、ツインバード工業の2ドア冷凍冷蔵庫「ハーフ&ハーフ」(HR-E915PW)は、冷凍室を優先して考えた小型冷蔵庫だという。この製品はどうして生まれたのか。本当に使いやすい家電はどれかをレビューするために、自宅とは別に専用の一軒家を用意してしまった家電プロレビュワーの石井和美さんが開発者に話を聞いた。
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ツインバードの「ハーフ&ハーフ」は容量146リットル、高さ122センチというコンパクトな冷蔵庫だ。
このサイズの冷蔵庫は、下が冷蔵室、上が小さな冷凍室になっていることが多い。だが「ハーフ&ハーフ」は上が冷蔵室、下が冷凍室となっている。しかも扉だけ見ると冷凍室のほうが大きい。容量は冷蔵室と冷凍室はそれぞれ73リットルと同じなのだが、冷凍室に引き出しが4段入っており、その分のスペースが必要だからだ。引き出しは一番上の段が浅く、一番下の段が深くなっている。
実際に冷凍食品を入れてみると、その収納力に驚いた。整理しながら大量に入れることができるのだ。引き出し式でデッドスペースが少ないため、上から下までびっしり収まった。本格的な自炊ではなくても、節約するために冷凍うどんやパンなどをストックしておきたいとき、これなら無駄なく入れることができる。
一般的なコンパクト冷蔵庫と異なり、冷凍室に力を入れた「ハーフ&ハーフ」はどうして生まれたのか。ツインバードを訪ね、開発担当者に話を聞いてみることにした。
変わる冷凍食品に対する意識
――冷蔵室と冷凍室が同じ大きさという「ハーフ&ハーフ」を開発した経緯は?
開発生産本部プロダクトディレクション部の岡田剛さん(以下、岡田) 一つは外部環境が大きいですね。どんどん人口が減っていく中で、単独世帯が増えていることに着目しました。会社として1人、2人世帯向けのライフスタイル家電の創造をしていきたいと考えたんです。
ツインバードは2015年に容量86リットルの一人暮らし向け冷蔵庫を発売しました。当社として初めての冷蔵庫ということで、新生活向けの提案で開発したところ、思った以上に売れ行きが好調だったんです。
「なるほど、新生活需要というのはあるんだな」と学んだのと同時に、子どもが巣立ったシニアの年代の方々や、離婚されて1人の生活に戻った方などのことも考えると、1人、2人向けの商品をつくっていくことで活路が見いだせるんじゃないかという期待が生まれたんです。ライフスタイルの変化に合わせた、ツインバードならではの価値をつけていけば、もっと良いものができるんじゃないかと。
とはいえ、白物家電は日本の大手メーカーがひしめく分野です。さらにハイセンス、ハイアール、アクアといった価格を抑えたアジアメーカーも独自の製品を出している。我々は何を特徴にするかという点で、非常に悩みました。最後発という部分で特徴的な商材にしたかったですから。
――そこでたどり着いたのが「大容量の冷凍室」というわけですか。
岡田 「クラス最大の冷凍容量」という特徴は、売り場においても訴求しやすいですし、キャッチーですからね。
「冷凍食品=手抜き料理」というイメージがありましたが、最近、その見方が変わってきています。19年4月に日本冷凍食品協会が発表した調査でも、「冷凍食品をまったくまたはほとんど使用しない」という人は2割前後で年々減少している一方で、利用する頻度が増えた人の声を見ると「調理が簡単で便利だから」「おいしいと思う商品が増えたから」「手ごろな価格だから」というポジティブな理由が上位を占めているんです。実際、コンビニエンスストアやスーパーでも冷凍食品売り場はどんどん増床しています。
――冷凍室の役割が大きくなっているわけですね。
岡田 そういった動きがあるのだったら、冷蔵と冷凍の容量を同じにするというのは、現在の日本の暮らしにあったコンセプトの商品になるのではないかと考えたんです。
――ただ「まとめ買いをするのは大家族」という印象があります。一人暮らしや2人くらしでもそういうニーズがあると考えたわけですか。
岡田 もちろん最初から新生活を始める全員をターゲットにしたわけではありません。狙っているのは節約したい人、ヘルシーな生活をするためにまとめ買いをして自炊をしようと考えている人といった層です。少しニッチな方向でのコンセプトではあったと思うんですけれども、そのおかげで、とんがった特徴を持った、わかりやすい商品にはなったのかなと思っています。
――発売は17年。実際に買った方は狙い通りでしたか?
岡田 そうですね。新生活を始める人、節約したいと考えている一人暮らしはもちろんですが、単身赴任など、ふだん料理をしない男性が「冷凍室が大きいと冷食をたくさん入れておけるので便利」という理由から購入するケースも多いです。また「今使っている冷蔵庫では冷凍ストックが足りない」と2台目として購入する人が多いことには驚きました。
最近、シニアの一人暮らし向けに、栄養士が栄養価を測った冷凍のお弁当をまとめてデリバリーするサービスも増えていますが、そういったサービスを利用している人にも大容量の冷凍室はアピールポイントになっていると思います。
――新生活を始める若い人だけでなく、一人暮らしの高齢者のニーズにも合っているわけですね。
引き出しでフードロスを防ぐ
――実際に使って便利だと思ったのが、冷凍室が多段式の引き出しになっている点でした。
岡田 一般的な冷蔵庫の冷凍室は「ドロワー式」と呼ばれる大きなバスケットが入ったタイプがほとんどです。ただこれは容量を大きくすると奥の物が取りづらくなるんですよ。入れっぱなしで忘れてしまったり。多段式の引き出しにすることで整理しやすくなるし、出しやすくなります。
フードロスも社会問題になっていますが、「たくさん入るけど取り出しやすい」「奥にしまっても忘れにくい」冷凍室にすることでロスも減らせるんじゃないかと考えました。
――引き出しのそれぞれの段は、冷凍食品がちょうど収まるようなサイズになっていますね。冷凍食品の規格に合わせたのですか。
岡田 開発にあたって日本冷凍食品協会や冷凍食品を発売している企業を訪ねたのですが、冷凍食品のパッケージには規格がないそうなんです。そこでスーパーに通って、ありとあらゆる冷凍食材を買い集めました。冷凍食品はもちろん、ピザや冷凍うどん、その他にもいろんなサイズのものを想定しながら、棚のサイズを決めたんです。
――天面も広くて、大きいオーブンレンジも置くことができますね。
岡田 冷凍食品を多く使っていただきたい商品なので、電子レンジを使う機会は当然多いですから、電子レンジとの親和性は非常に意識して作りました。このクラスの冷蔵庫は480ミリ幅が一般的なんですが、ハーフ&ハーフは少しワイドで525ミリ。少し幅広で背が低い、ワイド&ローのデザインフォルムになっています。これらは女性の平均身長158センチの方でも使いやすい高さを、と考えた結果です。
――女性ユーザーを意識したからか、デザインもシンプルできれいだと感じました。ユニークなのは目立つところに「ツインバード」のロゴがないこと。新たな分野への新規参入ということで、社名をアピールしようという気持ちはなかったのですか。
岡田 当社のブランド名を製品につけて、お客様にお届けしたい思いは当然ありました。ただ、その一方で冷蔵庫はほぼ動かさない、家具に近い家電ですから、余計なものはできるだけ省きたいという思いもありました。その結果、現在、当社で販売している冷蔵庫は、基本的にロゴを入れない方向でまとめています。
――今後も、このような独自路線を続けるのでしょうか。
岡田 当然ながら今後ますます省エネ基準も厳しくなっていきますので、このサイズ感を生かしたまま、中身はどんどん進化をさせていく必要があると思います。当社は宇宙ステーションで稼働している極低温冷凍庫にも用いられている独自の冷却技術を持っています。今後はこういった技術も取り入れ、独自性のある冷蔵庫にしていきたいと考えています。
冷蔵室も使いやすい
冷凍室に目が行きがちなハーフ&ハーフだが、冷蔵室もよくできている。岡田さんによると、冷蔵室の開発も、冷凍室のときと同じように、よく入れるであろう350ミリリットルや500ミリリットルの缶、納豆パック、ヨーグルトなど、だいたいのサイズが決まっているものを想定しながら棚のサイズ割りやドアポケットのサイズなどを設定していったという。
冷凍室と比較すると、冷蔵室は小さく見えるが、ガラスの棚は外して高さを変えることもできる。外してお手入れするのもカンタンだ。
食材を買ってきて入れてみた。肉やハム、たまごなどのほかに豆腐やヨーグルト、サラダ用の野菜など、一人暮らしなら数日は買い物に行かなくても足りる分量だ。ビールなどの缶もぴったり入る高さで無駄がない。
ユニークだけど実用的
試用していて少し気になったのは音の問題。「ジー」という音、加えてたまに「カチッ」という音がして、その音が大きく感じた。単身者用の冷蔵庫はファミリー世帯のハイエンド冷蔵庫と比較すると音が大きくなりがちだが、もう少し抑えられるとワンルームで使う人にとっても快適性が増すだろう。
とはいえ、これだけ入れられる収納量は魅力的だ。デッドスペースが少ないので、他社の同容量クラスの冷蔵庫と比較しても実際に入れられる量が多い。サイズがコンパクトなので単身者限定と見えるかもしれないが、このサイズなら十分使えるという2人暮らし家庭も少なくないと思う。
節約するために作り置きしたり、冷凍食品をストックしたり、食材を上手に活用できる「ハーフ&ハーフ」は、多くの単身者や2人暮らしの家庭にとって最適な冷蔵庫ではないか。ユニークだが、決して奇をてらっているわけではなく、実用的で使いやすい。個人的にも「自分の子どもが独立する際は、この冷蔵庫を買ってあげよう」と決心するほど気に入った製品だ。
家電プロレビュワー。白物家電や日用品などを中心に製品レビューを行う。レビュー歴15年以上。茨城県守谷市に家電をレビューするための一戸建てタイプ「家電ラボ」を開設。冷蔵庫や洗濯機などの大型家電のテストも行っている。
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