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「研究室」に行ってみた。

カマドウマの心を操る寄生虫 ハリガネムシの謎に迫る 神戸大学 群集生態学 佐藤拓哉(1)

2019/8/12

「キリギリスの仲間に近い、カマドウマ科というのがちゃんとありまして、日本でも70種以上はいるんです。この研究林にいるのは、マダラカマドウマ、モリズミウマ、コノシタウマといったあたりだと思っています。森の中でじめじめしたところで暮らしていて、なにかの死肉ですとか、有機物なら何でも食べるような生き方ですね。

翌朝、トラップを回収する佐藤さん

デトリタス食者、日本語としては、腐肉食者などと言います。昔、家にかまどがあった頃は、ああいう炊事場のじめじめしたところで、しかも残飯なんかがあるわけですから、そこに夜な夜なやってきて食べたりしていたわけです。それで、ちょっと馬に似たかんじもする形なので、カマドウマやと」

今、カマドウマが出る家屋は、都市部では昔に比べると少なくなったかもしれない。それでも、ちょっとした雑木林でもあれば、普通にいる。つい何年か前にも、子どもと一緒に夜の雑木林へカブトムシを採りにいって、共食いしているのを見たっけ。食われている方もまだ生きていて残酷だなあと思ったのだが、襲って食べたというより弱っているのを利用可能な有機物として粛々と食べていたということのようだ。

それでは、カマドウマの生活史はどんなふうだろう。

格好良い? 気持ち悪い?

「寿命は2~3年と言われています。実際、いつ生まれて、どのスケジュールで成長してるのか、未解明なところがあります。少なくとも秋口になると、途端に小さいやつが出てくるので、そこから小さいまま越冬して、春先からたくさんのエサを食べて成長して、もう1年かかって多分成虫になるんじゃないかなというようなイメージですね。もっとも、昆虫は成長に結構いろいろバリエーションがあるので、地域によっても違ってるんじゃないかなと」

以上、カマドウマについての最低限の理解が得られたと思う。

このカマドウマが森林の生態系に非常に大きな役割を果たしているというのが、佐藤さんの研究成果だ。詳しくはまた後でこってり教えてもらうが、この時点でひとつだけ押さえておきたいのは、その「大きな役割」が、実は「決定的な役割」でもあることだ。

「僕が研究してきた森では、渓流のサケ科の魚が年間に得る総エネルギー量の6割くらいをカマドウマを食べて得ていたんです。本州でカマドウマが、行動を操作されて川に飛び込む時期は、秋の3カ月くらいなんですが、その間に1年の6割のエネルギーを得てしまうという」

トラップに入ったカマドウマ

なかなか定量的な測定が難しいものを、綿密な観察を行ってきちんと推定した。国際的にもインパクトがある研究で、最近注目されている新興分野、生態系寄生虫学の教科書でも、寄生虫による行動操作が生態系に与える決定的な役割の例として挙げられているそうだ。

そして、カマドウマを操って川に飛び込ませるのが、寄生虫のハリガネムシ、なのである。

(2014年10月 ナショナルジオグラフィック日本版サイトから転載)

佐藤拓哉(さとう たくや)
1979年、大阪府生まれ。神戸大学理学部生物学科および大学院理学研究科生物学専攻生物多様性講座准教授。博士(学術)。在来サケ科魚類の保全生態学および寄生者が紡ぐ森林-河川生態系の相互作用が主な研究テーマ。2002年、近畿大学農学部水産学科卒業。2007年、三重大学大学院生物資源学研究科博士後期課程修了。以後、三重大学大学院生物資源学研究科非常勤研究職員、奈良女子大学共生科学研究センター、京都大学フィールド科学教育センター日本学術振興会特別研究員(SPD)、京都大学白眉センター特定助教、ブリティッシュコロンビア大学森林学客員教授を経て、2013年6月より現職。日本生態学会「宮地賞」をはじめ、「四手井綱英記念賞」、「笹川科学研究奨励賞」、「信州フィールド科学賞」などを受賞している。
川端裕人(かわばた ひろと)
1964年、兵庫県明石市生まれ。千葉県千葉市育ち。文筆家。小説作品に、『川の名前』(ハヤカワ文庫JA)、『天空の約束』(集英社文庫)、NHKでアニメ化された「銀河へキックオフ」の原作『銀河のワールドカップ』(集英社文庫)とその“サイドB”としてブラインドサッカーの世界を描いた『太陽ときみの声』(朝日学生新聞社)など。
本連載からのスピンアウトである、ホモ・サピエンス以前のアジアの人類史に関する最新の知見をまとめた近著『我々はなぜ我々だけなのか アジアから消えた多様な「人類」たち』(講談社ブルーバックス)で、第34回講談社科学出版賞と科学ジャーナリスト賞2018を受賞。ほかに「睡眠学」の回に書き下ろしと修正を加えてまとめた『8時間睡眠のウソ。 日本人の眠り、8つの新常識』(集英社文庫)、宇宙論研究の最前線で活躍する天文学者小松英一郎氏との共著『宇宙の始まり、そして終わり』(日経プレミアシリーズ)もある。近著は、世界の動物園のお手本と評されるニューヨーク、ブロンクス動物園の展示部門をけん引する日本人デザイナー、本田公夫との共著『動物園から未来を変える』(亜紀書房)。
ブログ「カワバタヒロトのブログ」。ツイッターアカウント@Rsider。有料メルマガ「秘密基地からハッシン!」を配信中。

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