
<東の新鋭はこちら。「地鶏醤油(しょうゆ)」は鶏清湯のお手本>
続いて紹介するのは、19年6月19日にオープンした「自家製麺純」。
店舗は最寄り駅である京成立石駅(京成電鉄押上線)から徒歩2分程度の場所にある。京成立石駅の周辺エリアは以前から「東京東部におけるラーメン激戦区」として、ラーメン好きの間では有名だ。新店も断続的にオープンしており、私も何度となく立ち寄ったことがある。ただ、「純」のロケーションはどちらかと言えば、これまでラーメン店があまり存在しなかったエリアといえよう。私も、フレッシュな気持ちで店へと歩を進めることができた。
店主・三好氏は大のラーメン好き。ラーメン愛が高じて、ラーメン職人養成学校である「食の道場」の門を叩き、この度一国一城の主となった経歴の持ち主。

入店すれば、宙を舞うスープ素材の芳香が胃袋を臨戦態勢へと導く。基本メニューは券売機の筆頭に掲げられた「地鶏醤油」。その他、「地鶏塩」や、素ラーメン(具なしラーメン)である「煮干し(かけ)」なども提供している。そちらにも激しく興味をそそられたが、やはり、初訪問時にオーダーすべきは「地鶏醤油」だろう。
鶏の羽音が聞こえてくるような気がするほど、等身大の地鶏のうま味を引き出したスープは、けん引力こそ控えめであるものの、じわりと身体中に染みわたる滋味を最大限演出した癒やし系の味わい。膨大な仕込み時間を掛けているであろうことが容易に想像できる、鉄板の出来栄えだ。
スープにかぶせる液状油として地鶏の鶏油を、トッピングの「ワンポイント」として鶏つくねを採用するなど、複数のパーツを鶏で統一することで、一体感のある食味を構成しようとするギミックも特筆に値する。
麺にも、店主のこだわりが光る。

「このスープと最も相性が良い麺を、と考えていたら、おのずと自家製麺という結論に到達しました」。
食味が繊細な鶏清湯ラーメンに合わせる麺としてはやや太い、ストレート仕様。ただ、ひとすすりすれば、この選択が決して間違いでないことが実感できるだろう。適度な太さが、ラーメンに絶妙なアクセントを与えるとともに、「純」ならではの個性を生む原動力となっているのだ。
「私のラーメン職人としての腕は素人に毛が生えたような段階。これから、色々なラーメン作りの知識を学び、勉強していきたいと思います」と、謙遜する三好店主。「オープン早々の段階で、ここまでハイレベルな1杯が出せるのだから、大丈夫ですよ」。そんな言葉をグッと胸の内に収めながら、スープを飲み干した。
(ラーメン官僚 田中一明)
1972年11月生まれ。高校在学中に初めてラーメン専門店を訪れ、ラーメンに魅せられる。大学在学中の1995年から、本格的な食べ歩きを開始。現在までに食べたラーメンの杯数は1万4000を超える。全国各地のラーメン事情に精通。ライフワークは隠れた名店の発掘。中央官庁に勤務している。