少子化対策、クオーター制で差別撤廃を
ダイバーシティ進化論(出口治明)
2018年に生まれた子どもの数は92万人を割り込み、過去最少を更新した。少子化の根本原因は何か。それは男女差別にある。
最近では職場に赤ちゃんを連れて行っていいという企業が増えている。最近の仕事はアイデア勝負で脳を酷使するケースが多い。集中できるのは2時間程度で、3~4回繰り返すのがせいぜいだ。これは授乳サイクルと合っている。赤ちゃんにミルクを飲ませ、寝ている間に仕事をすれば約2~4時間。安心して働けるから生産性も上がる。
そんな記事を読んだ若いカップルの話だ。夫が「本当にうちの赤ちゃんを会社に連れて行ける?」と聞いたところ、妻は答えた。「何言ってるの。連れて行くのはあなたでしょ」。夫は一度も考えたことがなかったようで驚愕(きょうがく)したそうだ。
考えてみてほしい。家事・育児・介護は本来女性がやるべき仕事であり、男性は手伝えばいいという社会で、女性が赤ちゃんを産もうと思うだろうか。自分を苦しめるだけではないか。どんな施策をとっても、男女差別をなくさなければ赤ちゃんは永遠に増えない。
「出生率を上げても追いつかないから移民に頼るしかない」という人もいる。短期的には正しいが、長期的にはどうだろう。外国から来た女性だって、男女差別を温存したままの社会で赤ちゃんを産むはずがない。男女差別をなくすには、企業の役員や議員の一定割合を女性にするといったクオーター制が有効だ。
「パパは脳研究者」(クレヨンハウス、池谷裕二著)に書かれているが、女性は出産時にオキシトシンが出るから家族愛が自然に生まれる。オキシトシンが母性愛の正体だ。一方で男性は赤ちゃんの面倒を見ることによってオキシトシンが出る。かわいいから面倒を見るのではなく、面倒を見るからかわいいという気持ちが生まれ、いいカップル、いい家族になる。
だから男性に育児休業をとらせることは正しい。だが2~3カ月面倒を見ないとオキシトシンは出ない。
「代替要員がいないから難しい」というなら、発想が根本から間違っている。社員の育児休業をラッキーと考え、部署の仕事を棚卸ししてみよう。無駄な仕事をなくせば、代替要員なんていらない。復帰したときには新しい仕事を始めるか、みんなでもっと早く帰ればいい。それこそがイノベーションなのだ。
立命館アジア太平洋大学学長。1948年生まれ。72年日本生命に入社、ロンドン現地法人社長、国際業務部長などを務める。退社後、2008年にライフネット生命を創業し社長に就任。13年から会長。17年6月に退任し、18年1月から現職。『「働き方」の教科書』、『生命保険入門 新版』など著書多数。
[日本経済新聞朝刊2019年8月5日付]
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