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なやみのとびら、著名人が解決!

就職活動なのにやりたい仕事がない 作家、石田衣良さん

NIKKEIプラス1

2019/8/8

作家。東京都生まれ。2003年「4TEENフォーティーン」で直木賞。石田衣良のブックサロン「世界はフィクションでできている」主催(https://yakan-hiko.com/meeting/ishidaira/top.html)。

いま就職活動をしていて、仕事をすることに期待も抱いています。でもやりたい仕事が分からず、無理やり「これがやりたいんだ」と自分に言い聞かせています。社会人の皆さんは、本当にやりたい仕事を選んだのでしょうか。(埼玉県・20代・男性)

今を去ること40年近く昔、ぼくもきみと同じように考えていた。やりたい仕事なんてなにもないし、会社に入るなんて刑務所にいくのと同じだ。そこで大学卒業後、迷わずフリーターになった。

でも、現在はこんな荒っぽいやり口は勧めない。あの頃はバブルへ一直線の日本経済絶頂期、今は一度失敗すればなかなか再スタートが困難な永遠デフレの最中だからだ。

それにね、ぼくもきみと同じで、やりたい仕事がわからないという正論に頼りながら、自分が誰であるか決定するのが怖くてだらだらと先延ばししていた。

大学の友人の多くだって、なにがやりたいかなどわからなかったはずだ。それでも自分のなかにあるわずかな「適性」や「やる気」というカケラに必死にすがりつき、就職戦線を堂々と戦っていた。就活を逃げたぼくなんかより、ずっと勇気がある立派な行いだったと思う。

きみに特別な才能や最上級のコネでもなければ、最初から自分が望む仕事に就くことは困難だ。この社会で理想の仕事ができている人間など、圧倒的にすくないに決まっている。でもそういう人たちがつまらないかといえば、そんなことはまったくない。社会に出るとよくわかる。目立たない誰にでもできるような職場にも、立派な人は確実にいる。それは有名人なんかより、ずっと多いくらいだ。

きみはやりたいことがはっきりしなくとも、腹を決めて就職活動をがんばってみよう。なんとなく正しそうだという方向へ、そこなら自分でもがんばれるかもという仕事を目指して、一歩ずつ前進することをお勧めする。

ここで迷いを一度捨ててがんばることが、きっときみの未来の力になる。就活で出会った人が生涯の恩人や友人になるかもしれない。不安も恐怖ものみこんで、就職活動に全力で挑戦してほしい。

ここからはちいさな声で。

自分が壊れるほど試しても、すっきりしない。就活は到底自分には馴染(なじ)まない。そういう人は一生をかけて、自分が何者であるかを究めなければ生きていけない性分だ。ぼくと同じ種族である。探求の果てになにを見つけるにしても、一生を棒に振る覚悟でこちらにくるのなら、ぼくは密(ひそ)かに歓迎するよ。決して楽な道じゃないけどね。

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[NIKKEIプラス1 2019年8月3日付]

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