実質的な婚姻関係を解消する意思は不要
相談はいわゆる「偽装離婚」と呼ばれる形態、つまり本当に夫婦関係を終わらせる意図はないが、借金から逃れるためなど別の理由で役所に離婚届を提出することの是非についての質問と理解しました。
民法は「夫婦は、その協議で、離婚をすることができる」と規定しており、夫婦に離婚の意思があり、役所に離婚届を提出して受理されれば、それだけで離婚が成立します(協議離婚)。
ここで要求される「離婚の意思」については、実質的な婚姻関係を解消する意思までは不要で、単に離婚を届け出るという形式的な意思で足りると判例上、解釈されています。このため、離婚届提出の際に届け出の意思さえあれば、その後も同居するなど夫婦としての実態が継続する場合であっても、離婚は原則的に有効と判断されます。
夫の負債 妻は原則、法的な責任負わず
問題は、そのような形式上の「離婚」をすることに意味があるかどうかです。そもそも、夫婦の一方の負債について他の配偶者は法的な責任を負うのでしょうか? 夫が負債を抱えた場合、妻が負債を抱えた場合のいずれもありえますが、ここでは相談に沿って債務を負ったのは夫という前提で話を進めます。
いろいろな相談を聞いていると、夫が返せなくなった借金は「妻である自分にも返済義務があるのではないか」と誤解している人が少なくありません。しかし、夫婦は一方が負った債務について、他方が法的な責任を負うことは原則的にはありません。
例外的に、夫婦間で行われた日用品の購入や医療費・子どもの教育費などについては、たとえ夫婦の一方が負った債務でも他方が連帯して債務を負担します(「日常家事債務」といいます)。しかし、夫の事業の借金がこれに含まれないのは言うまでもありません。