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マツダ3、広さより美しさ 4人乗りロードスター狙う

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NIKKEI STYLE

2019年最大の話題作がデビューした。かつて「アクセラ」と呼ばれた「マツダ3」だ。秋には画期的な高効率エンジン、スカイアクティブXを追加し機能性を向上させる予定だが、造りは明らかにスタイル優先。国内試乗に参加した小沢コージ氏が、実用車らしからぬ美学を開発主査の別府耕太氏に尋ねた。

醜く太るなら、美しく痩せろ!

小沢コージ氏(以下、小沢) 改めて国内で乗ってつくづく思いましたが、相当思い切ってますよね。特にデザイン。本来実用的なファストバック(ルーフからトランクにかけてなだらかに傾斜したデザイン)なのに、明らかに格好や美しさを優先している。リアシートスペースもかなり思い切ってる。もちろん人が乗れないほどじゃないですけど。走りも質感重視ですね。

別府耕太氏(以下、別府) そうなんです。ねらいにしていた「誰もが羨望するクルマ」をどうしても実現したかったので。

小沢 言葉にするとやや陳腐ですけどね。映画でいうなら「世界が涙した」とか「大感動」みたいな(笑)。一方かつてのオランダの名サッカー選手、ヨハン・クライフの言葉を思い出しました。「醜く勝つなら、美しく負けろ」と。クルマで言うと「醜く太るなら、美しく痩せろ」って感じでしょうか。

別府 ありがとうございます。デザイナーに今回のねらいを真っ正面からぶつけたら、「これくらいやらないと人の心を動かせるデザインはできないよ」という答えが返ってきたんです。そこで、現行アクセラが持っているスペースだけは最低限確保しようと。パッケージを良くしてくれとは言わないと。

小沢 なるほど。このデザインにはデザイナーと開発陣のせめぎ合いがあったんですね。

別府 というか決意でしょうか。実際、ファストバックの全長は伸びていないし、セダンは80ミリほど伸びていますが、室内空間ではなくトランクスペースに使っています。

小沢 あくまでもカッコ優先。セダンとファストバックでは、部品をほぼ共有していないとか。

別府 そうなんです。現行アクセラはリアドアまで両車共通ですが、マツダ3ではボンネットとグリル回り以外は、ほぼ別設計です。

小沢 お金も掛かっていますと。美しさのキモはやはりキャラクターラインを使わない、うつろうカーデザインですか。(※編集注:キャラクターラインとは、ボディーサイドにつける基本的形状を構成する線。車体の形にメリハリをつける役割がある)

別府 それからもう一つがプロポーションです。キャラクターラインを使わない分、素のバランスの良さがバレてしまうので。

小沢 裸の美しさで勝負したと。フロントノーズもすっと長くなっているみたいですよね。中身はFF車なのに。

別府 あれはAピラーの角度を変えずに薄くし、ノーズを伸びやかに見せているんです。ボンネットも低くして、その分構造や素材に良い物を使って衝突安全性能をクリアしています。

開発の裏テーマは「4人乗りロードスター」

小沢 ちなみにリアからみるとほとんどスーパーカーみたいだと思いました。左右にスッと傾いていて富士山のようにキレイ。

別府 個人的な思いを言いますと、僕は初代(ユーノス)ロードスターユーザーなんですが、家族が4人いますので、家族全員でロードスターで出かけるのが夢でした。それをかなえてくれるのがコレなんです。

小沢 なるほど。開発裏テーマは「4人乗りロードスター」。カッコと走りはロードスターに近く、かつ家族も乗れるクルマだと。

別府 「誰もが羨望する」といいつつ、日常で使っていただけると思っています。

小沢 とはいえこのクラスは、ベストセラーのフォルクスワーゲン「ゴルフ」にしても、基本的には実用性重視のはずです。迷いはなかったんでしょうか?

別府 確信があったのが、ひとクラス下の現行「デミオ」です。あの挑戦が我々にはありまして、デミオが含まれるコンパクトカー市場は基本的に軽やボクシー(箱型)なミニバンスタイルのクルマが中心なんですが、その中でデザインと走り優先のマーケットを新たに作ることができて自信になりました。

小沢 そうか。てっきり僕はマツダ3は、デミオより実用性が求められる大変な市場にいるかと思ってましたが、逆なんですね。

別府 このセグメントにはクルマ好きがさらに多くにいらっしゃるし、実はイケるという。

小沢 「デミオがイケたんだから、マツダ3はもっとイケる」という判断ですね。 

別府 なおかつデミオの場合は日本車が競争相手でしたが、マツダ3は(競合には)当然輸入車も多く、購入層はクルマに対する思い入れが強い方々。良いモノを造れば見てくれるであろうと。

小沢 まさしくその通り。

別府 さらに今、マツダは一括企画、一括開発を進めていて、居住空間をお求めのお客様には先日公開した「CX-30」があるので、そちらをオススメしたいと。企画段階からすみ分けを明確にして開発を進めてきました。

イタリア車もびっくりの美しさ優先戦略

小沢 今後のマツダはこれから出るクルマも含めて、ますます美しく走る、美しく生きるという方向で行くんでしょうか?

別府 マツダ3は新世代商品群の1発目のメッセージですし、そういう方向性です。

小沢 いまどきイタリア車でもやらないような戦略ですけど。

別府 業界全体が100年に一度の変革期とも言われているときに、我々はクルマが機械式時計のようなマーケットに推移するんじゃないかと思っているんです。時間を見るのがスマホでもGショックでもよくなった時代に、腕を飾るという意味合いで高級腕時計が伸びてきている。今後移動の選択肢が増えたとき、クルマもそういうふうに変わってくるんだろうなと。

小沢 先日、トヨタのスポーツカー開発者も同じようなことを言ってました。(記事「スープラ開発者『スポーツカーは成長産業』という理由」参照)

別府 クルマがシェアリングされたり、自動運転化や電動化されたりしていく時代。時計がスマホ、Gショックに換わっていく部分と絶対換わらない部分があるように、我々も置き換わらない場所でしっかり生きていきたい。ここがその地盤としての第一歩かなと思うんです。

小沢 実はマツダの2代前の山内孝社長に「世界2%戦略」をお聞きしました。「我々マツダは世界で2%のシェアが取れればいい」「巨大シェアは決して望まない」。そこは変わってないですよね?

別府 変わっていないです。ものづくりは、数を追った瞬間に平均値を見るアプローチになるんです。他と同じような主流のど真ん中を狙うような発想になる。だけど平均を取るのではなくて、みんなが喜んでくれる価値をどう作り込むかが我々の発想の原点にある。それは今後も変わらないと思います。

小沢 いいですね。平凡を求めない業界平均を追いかけないものづくり。

別府 僕はクルマはもちろん、プロダクト全般に興味があって、香川県のうどんを初めて見た時に衝撃を受けたんです。世の中、ラーメンやパスタなどいくらでもおいしい麺類があるのに、うどんにしょうゆをかけただけのものを全国から来た人が並んで食べていく。あれを見たときに、別に新しい革新的なものじゃなくても、人の心は動かせるんだと改めて感じまして。

小沢 マツダ3は讃岐うどんに負けないと。

別府 はい(笑)。

小沢コージ
自動車からスクーターから時計まで斬るバラエティー自動車ジャーナリスト。連載は日経トレンディネット「ビューティフルカー」のほか、「ベストカー」「時計Begin」「MonoMax」「夕刊フジ」「週刊プレイボーイ」、不定期で「carview!」「VividCar」などに寄稿。著書に「クルマ界のすごい12人」(新潮新書)「車の運転が怖い人のためのドライブ上達読本」(宝島社)など。愛車はロールス・ロイス・コーニッシュクーペ、シティ・カブリオレなど。

(編集協力 北川雅恵)

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