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私立恵比寿中学 10年間攻め続けた功績(川谷絵音) ヒットの理由がありあまる(12)

日経エンタテインメント!

2019/9/2

今回で連載の12回目。そんな1周年にふさわしい今回のテーマは、私立恵比寿中学の『トレンディガール』です。作詞作曲は誰かって?そう、わたくし川谷絵音です。「いやいや自分やん!」みたいな突っ込みもあるかとは思いますが、大事なのはエビ中です。

エビ中は今年結成10周年、ベテラン期に入ってきたアイドルだ。しかし10年間攻め続けている。今回のレコーディングで気付いたのだが、全員が魅力的な歌声を持っているのだ。ここまで歌声の種類が分けられているアイドルグループは珍しい。そしてこの声をより引き立たせるのが攻めた楽曲たち。例えば『使ってポートフォリオ』(13年)。王道のアイドルソングが27秒から演歌風に、50秒あたりからはクラブミュージックに、1分18秒頃をすぎてポップなメロディーに戻ってくる。こんな具合で曲調が極端に変わるため、自然と歌い方も変わる。つまりもともと個人が持っている歌声の癖に、さらに“色”が加わるわけだ。

この色ってめちゃくちゃ大事で、歌がうまいっていう要素を持っていても、色は曲調でしか出せない。癖はあってもその先の色がなければ人の胸を打つ音楽はできないのだ。エビ中は全員の癖がきれいに違う。だから、打ち消し合わずに絶妙なバランス感で成り立っている。

そんなこんなで僕が作った『トレンディガール』。初めてここで語ることになるが、僕が作る曲は、他の作曲家と何が違うかという話をしよう。まず、僕は音楽理論も知らなければ耳も悪い。ここで言う耳の悪さというのは、「理論上気持ち悪いコード進行」や「そのコードにこの歌メロは気持ち悪いでしょ」というプロの指摘が全く理解できないことだ。音感も悪いため、軽い不協和音でも心地良いとさえ感じてしまう。そんな感じでメロディーを作るため、普通はいかないところに音符を置ける。こんな作り方でやってきたので、多くの変な曲(理論上)が生まれた。だからメロディーを聴いただけで川谷絵音だと、一度僕の曲を聴いたことがある人は思うわけだ。そして僕はポストロックといわれるジャンルに傾倒していた時期が長いため、ポップスとは無縁な伴奏にポップなメロディーという違和感が生まれる。本当に自然に。  

今回、ドラムレコーディングには、日本のポストロックの象徴的バンド、toeの柏倉隆史さんに参加してもらった。僕は曲を作る時に歌メロを引き立たせるアレンジは一切しない。楽器が好きだから。なので今回も、歌を殺しかねない手数の柏倉さんのドラムを入れた。でも曲を聴いたら分かるが、歌メロは全く殺されていない。なぜか。それは前述したエビ中の歌声が絶妙なバランスで成り立っているから。そしてもともとの個々の声が強い。歌に強さがあれば楽器は何をしても良い。それが僕の持論だ。演奏に負けるのなら歌が良くない。そう思ってやってきた。そして今回はその持論の下、エビ中に挑戦する意味でも作った。

確かに『トレンディガール』は、王道のアイドルソングっぽさはないかもしれない。でもそれはアイドルとしてくくれないエビ中の魅力に賭けた部分も大きい。10周年という大事な時期だからこそ、「スルメソング」にもなるように意識して作った。ちなみにスルメソングとは何回も聴くとハマってくる曲のことで、スルメなほうが消費されにくい。

アイドル乱立時代において、エビ中は独自の文化を作り出している。10年間攻め続けた功績だと思う。じゃないと川谷絵音に楽曲提供のオファーなんかしないでしょう。もうすでに20周年の絵が見えているアイドルグループは、なかなかいないと思う。歌声が渋くなったエビ中を見てみたくない?僕は見たい。そんな妄想もしつつ、カップリングの『あなたのダンスで騒がしい』を聴くのです。これも川谷絵音作詞作曲。運営さん、攻めてますなぁ。

川谷絵音
1988年12月3日生まれ、長崎県出身。ゲスの極み乙女。、indigo la End、ジェニーハイ、ichikoroといったバンドのボーカルやギターとして幅広く活躍。ゲスの極み乙女。の新曲『秘めない私』を現在配信中。indigo la Endは、10月9日に5thアルバム『濡れゆく私小説』をリリースする。

[日経エンタテインメント! 2019年7月号の記事を再構成]

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