抹茶スイーツにおばんざい 渋谷に「伊右衛門サロン」
2019年7月3日、東京・渋谷の商業施設「渋谷ヒカリエ」7階に開業したカフェ「伊右衛門サロン」。その名の通り、サントリーの緑茶「伊右衛門」を看板にした飲食店だ。
伊右衛門サロンのテーマは日本茶。煎茶やほうじ茶などをドリンクバー形式で提供する「お茶バー」や、抹茶を使ったスイーツを提供。京都のおばんざいをイメージしたビュッフェ「おばんざいバー」や釜で炊いたご飯など、和食を中心に日本茶と相性の良いメニューをそろえる。
同店を手がけたのは飲食店の企画運営などを行うカフェ・カンパニー。1999年に東京・原宿に「WIRED CAFE」を開業後、複数の飲食ブランドを展開。国内のみならず、海外にも店舗を増やしている企業だ。同社はサントリー食品インターナショナル(以下、サントリー)と京都の製茶企業・福寿園の2社とライセンス契約を結んでの運営。店内で使う茶は福寿園が用意する。
サントリーの思惑と一致
実は、伊右衛門サロンの名を冠した店はこれが初めてではない。「お茶を中心にしたカフェを作りたい」という思いから、08年にサントリー、福寿園、カフェ・カンパニーの3社が手を組み、京都・烏丸三条に開業。正確には、これが伊右衛門サロンの1号店だ。定期借地権の終了に伴って18年12月に閉店したが、10年間の来店者数は約210万人にのぼった。
閉店直前の18年から、サントリーは「100年ライフプロジェクト」として健康寿命に役立つ飲料やサービスの開発に取り組むことを宣言。手始めに伊右衛門のトクホ(特定保健用食品)飲料「特茶」の購入者を対象にしたアプリや大々的なキャンペーンに取り組んだ。
「伊右衛門という商品を売るだけでなく、サービスとひもづけたい。その一つが伊右衛門サロンのライセンス契約」と、サントリー ジャパン事業本部の沖中直人戦略企画本部長は説明する。
カフェ・カンパニー側も、食を通じて心身の健康をサポートするブランドを立ち上げたいと考えていた。両者の考えが一致した形だが、日本茶をテーマにした理由には「ここ最近はタピオカミルクティーがブームになっている。日本茶が中心のカフェも求められているのではないか」という、カフェ・カンパニー 楠本修二郎社長の思惑もあった。
5年間で国内外100店舗まで広げる
だが、店舗でペットボトル飲料の伊右衛門を提供するわけではない。日本茶をテーマにするのであれば、カフェ・カンパニーが製茶企業と組んで独自のブランドを立ち上げるという手もあったはず。現に、一部のライセンスブランドを除き、カフェ・カンパニーが持つブランドのほとんどが自社開発だ。
だが、「伊右衛門のブランド力は高い」と楠本社長は説明する。閉店した伊右衛門サロンは町屋を改装した中庭付きの建物や早朝から和食の朝食や日本茶を提供するメニュー構成が受け、観光客を中心に、地元客からも人気を集めていた。他のエリアから複数回出店の要望を受けたが「経営はあくまでもサントリー。カフェ・カンパニーは企画やメニュー開発、店舗の運営として関わっていたため、自分たちの意思で店舗を増やすことはできなかった」(楠本氏)。
今回のライセンス契約をきっかけに、同社は伊右衛門サロンブランドの多角化を構想。今後5年間で国内外で約100店舗を目指す。渋谷ヒカリエの店舗を中核とした伊右衛門サロンはアルコールの提供や物販まで行うフルサービス型として、全国のターミナル駅を中心に30店舗程度を予定。すでに京都・東山に開業している「伊右衛門サロン アトリエ」は、ワークショップなども行う体験型店舗として国内外に5店舗程度。残りをスタンド形式の店舗「伊右衛門サロン ティールーム(仮称)」として展開する。
それぞれの業態にターゲットは設定していないが、伊右衛門サロンのように駅直結の商業施設であれば20~40代の女性、スタンド形式はオフィスビルへの入居も想定しているので男性の来店も見込めるだろう。
トクホ飲料を含めると、ペットボトルの緑茶は乱立状態。伊右衛門カフェで消費者とのタッチポイントが増えれば、コンビニやスーパーの棚の前で伊右衛門を想起して手に取る人は増えるかもしれない。キャンペーンやCMとは異なる、新しいブランディングの形といえそうだ。
(ライター 樋口可奈子)
[日経クロストレンド 2019年7月17日の記事を再構成]
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