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長友選手のカラダ再生 脂質で変えるファットアダプト 食事法の監修医師・専属シェフに聞く(上)

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2019/8/18

山田医師 食後高血糖が良くないのは、アスリートだけではなく、一般の人すべてです。そこで、私が提唱している「ロカボ」では、このような食後高血糖を起こさないために、1食20~40gの糖質を1日3回と間食10g、合わせて1日70~130gの糖質を摂取し、カロリーやたんぱく質、脂質の摂取には制限を設けず満足するまで食べてください、とお伝えしています。

その一方で、その後の長友選手と加藤シェフとの取り組みの中では、糖質と同時にエネルギー摂取も少なくなってしまっていて、それが先ほど述べた体重の減少という問題を引き起こしていたのです。極端な糖質制限食をすることで生じるケトン体[注2]という物質は食欲を低下させる作用があるため、体重を減量させたい肥満者にとっては時にメリットにもなるのですが、体重を維持したいアスリートの食事法としては、極端な糖質制限食は不適切ということになります。また、そもそも、アスリートのエネルギー消費量は一般人とは格段に異なります。その意味では、ロカボという一般人向けの食事法とは異なる、個々のアスリートごとに設計した食事法が必要なことは明らかでした。

長友選手の場合は、特に運動量の非常に多いアスリートであり、まずは、体重を落とさないレベルで、血糖値の乱高下が起こらない範囲内の最適な糖質量を調べる必要がありました。そこで、「どの程度の糖質摂取で、どのくらい血糖値が上がるか」をモニターするために、24時間の血糖値を測定できる測定器(FreeStyleリブレ)を2週間装着してもらい、食後血糖値を含め、血糖値の推移を測り続けました。

その結果、長友選手は1食当たりの糖質量が40~60gの範囲内であれば、血糖値の上昇が140mg/dL未満に抑えられ、食後高血糖が生じないことが確認できたのです。

■パフォーマンスアップは食事法の変更による効果

――1食当たり糖質40~60gというと、長友選手の場合は「ロカボ」の推奨量より多かったのですね。

加藤シェフ そうなのです。話が前後しますが、私がまだ長友選手の専属シェフになっていないとき、つまり筋肉のケガが多かった当時の長友選手は、パスタやごはんなどの糖質をたっぷり食事でとった後にデザートも食べていたそうです。朝食にメロンパンを食べて、おやつにクッキーを食べる、といったことも多かったとか。「糖質はエネルギーになる」(=カーボローディング)と解釈して、そういう食べ方をしていた、と話していました。

6月のトークショーで長友佑都さんと話す加藤超也シェフ

私が専属シェフとなった当初も「食事、まだ?」とせかせかすることがあり、食事もかき込むようなときがありました。食後はすぐに眠くなるようでした。そこで、私は「とり過ぎている糖質量を削ることによって脂肪をエネルギー源として活用できる体に変えたい」と考え、「1食当たり40g前後」と糖質量を定めました。しかし、「この糖質量でいいのか」という迷いがありました。

そんなこともあり、山田先生にご指導いただくのはとても心強かったのですが、「糖質60gまではいい」というのが意外でした。ご指摘のように想定以上に多かったからです。「1食当たり40~60g」の糖質量とは、ごはん茶碗1杯ほどに相当します。そこで「糖質量を増やすと、脂質代謝が優位にならないのではないですか?」と質問しました。

すると山田先生は、「食後血糖の推移を見た上で判断しているので大丈夫です。長友選手の場合、この程度の糖質量であれば、脂質を利用できる体に変わっていきますよ。その代わり、脂質を燃やす体になるためには2~4週間かかります。その間、続けないといけないので、しっかり続けてください」とアドバイスをいただきました。

――著書の中で長友選手は、「ファットアダプトを始めて1カ月もしないうちに、脳も筋肉も思い通りに働くようになってきた。集中力も途切れないし、カラダのキレもスピードも戻ってきた」と書かれていますね。実際、新たな食事法にして、長友選手にはどんな変化があったのでしょうか。

加藤シェフ エネルギー摂取量がしっかりしつつ、血糖変動が安定したためだと思いますが、本人は「そろそろ食事か」というように余裕ができ、ゆったりと食事をされるようになりました。食後の眠気も昼寝もなくなり、頭がクリアになり、ピッチの中でも外でも集中力が高まり、状況判断が良くなったと話しています。

リカバリー力が高まり、すぐに疲れがとれる、さらには大学時代から悩まされていた顔や背中の吹き出物も一切出なくなったそうです。トレーニングは以前から誰よりもやってきた彼ですので、変えたのは食事だけ。パフォーマンスアップは明らかに食事法の変更による効果だ、と確信を持っています。

2015年のシーズンまでは筋肉系のケガが多く、ケガによる離脱も多く、インテル・ミラノの放出リストに載っている状況でした。しかし、食事法を転換した後は、筋肉系のケガは1回もなく、足もつらなくなったと本人も大満足しています。糖質を大幅にカットしていたときよりも体重は増えましたが、体脂肪は上がっておらず、筋肉量は3~4キロは増えたのではないかと思います。

やはり、本人の食後血糖値の変動を、改めてきっちり調べたのが良かったと思います。これまでは、「いい食事法」というものはあっても、本人の体に合うものかどうかを知る方法がないまま試していました。食後血糖値を計測し、食後高血糖が起こっているかどうかを確かめられたので、効果のある方法をピンポイントで実践できたのだと思います。

――長友選手も、トークショーでは「たんぱく質と脂質は満足いくまでとることができるから、ストレスがない。加藤シェフが作ってくれるイスタンブールの新鮮な魚の料理が本当においしくて、外食したいと思わない。日々闘いの連続で緊張しているから、シェフの食事で精神が緩むんです」と話されていましたね。

山田医師 「健康になるためには、粗食で我慢しなさい」と言われていたのがこれまでの食事法でした。しかし、これからは「おいしい」と「健康」が両立できる、ということが医学的エビデンスによって証明されてきています。長友選手にも、おいしく食べていただきながらパフォーマンス向上に貢献できたことがなによりうれしいですね。

加藤さん 血糖値を上げない甘味料もあるので、長友選手の大好きなガトーショコラやチーズケーキも作っています。甘いものも提供し、満足いただいています。

◇  ◇  ◇

次回は、2018年秋に長友選手を襲った「肺気胸」をどのように乗り越えたか、また、ファットアダプト食事法の医学的エビデンスについて、さらに詳しく聞いていく。

[注2]ケトン体とは、βヒドロキシ酪酸、アセトン、アセト酢酸の3つの総称で、人間の体のエネルギー源になる物質。ブドウ糖がとれない時間が長くなると、脳はブドウ糖の代わりにケトン体をエネルギー源として利用する。

(ライター 柳本操、インタビュー写真 菊池くらげ、図版 増田真一)

長友佑都選手の食事法 監修医師・専属シェフに聞く
後編 長友選手を変えたファットアダプト食事法の医学的根拠
山田悟さん
北里大学北里研究所病院糖尿病センター長、食・楽・健康協会代表理事。1970年東京都生まれ。日本糖尿病学会糖尿病専門医。日々、多くの患者と向き合いながら、食べる喜びが損なわれる糖尿病治療においていかに生活の質を上げていけるかを研究する中、糖質制限食に出合い、積極的に糖尿病治療に取り入れる。2013年に、一般社団法人「食・楽・健康協会」を立ち上げる。著書『糖質制限の真実』(幻冬舎)ほか多数。
加藤超也さん
長友佑都専属シェフ。1984年青森県生まれ。2010~2016年横浜市のイタリア料理店「cucinapinocchio」でシェフを務める。2016年Cuoreに入社し、長友佑都専属シェフに就任。長友選手のインテル・ミラノ在籍時はイタリアでサポートに従事。現在はガラタサライへの移籍と合わせてトルコのイスタンブールに移り住み、2018-19シーズンの長友選手の2連覇と2冠に貢献。昨今は様々な競技のトップアスリートへの食事指導を行う。

[日経Gooday2019年7月23日付記事を再構成]

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