「今、プロ生活12年間のなかで一番良いコンディションを維持している」と語るのは、サッカー日本代表として3度のW杯に出場した長友佑都選手。「筋肉系のケガが多く、食後に眠くなり、ピッチでもぼーっとしてしまうことがあった」という2年前から食事法を転換、昨年は肺気胸による手術を医師も驚く回復力で乗り越えた。
長友選手が実践している食事法の監修者である北里研究所病院糖尿病センター長の山田悟医師と、長友佑都選手の専属シェフ・加藤超也さんに、2回に分けて話を聞いていく(後編は「長友選手を変えたファットアダプト食事法の医学的根拠」)。
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イタリア1部リーグ「セリエA」のACチェゼーナ、インテル・ミラノを経て、2018年1月よりトルコ・スュペル・リグのガラタサライSKに所属。そしてリーグ2連覇、さらにトルコ・カップ戦の2冠を達成した長友佑都さん。日本代表として南アフリカ、ブラジル、ロシアと3度のW杯に全試合出場し、2022年のカタールW杯を目指すと公言している。
そんな彼を2年前から支えているのが「ファットアダプト」という食事法だという。長友選手が実践している「ファットアダプト」とは何か――。
2019年6月には、現在32歳の彼の体を変えた食事法の詳細を綴った『長友佑都のファットアダプト食事法』(幻冬舎)が発売された。本書では、ファットアダプトの基本ルールに加えて、加藤超也シェフの4週間レシピ、この食事法の監修を務めた山田悟医師による科学的根拠の解説も記されている。
2019年6月22日に出版記念トークショーが開催された。ここで長友選手はこう話している。
「この食事法に出合うまでは、1年間に肉離れを2~3回起こし、ピッチでの集中力低下にも悩んでいました。30歳を過ぎたら引退しないといけないかもしれない、という危機感が常にありました。しかし、ファットアダプトを取り入れてからは筋肉系のケガは一度もない。メンタルのコンディションも最高にいい」
日経Goodayでは、監修者である北里大学 北里研究所病院 糖尿病センター長の山田悟医師と、長友選手の専属シェフ・加藤超也さんにこの食事法について話を聞いた。トークショーでの長友選手の話を交えながら、その全貌を紹介していこう。
「ファットアダプト」とはどんな食事法なのか?
――トークショーに登壇された長友選手が「食生活を変えてから、僕は肉体的にも精神的にも自分史上最高に仕上がっている」と力強く話していたのが印象的でした。どういった食事法なのか、そしてどんな人に適しているのかなどが気になります。まずは、「ファットアダプト」食事法について教えていただけますか。
山田医師 私のほうからご説明しましょう。一言で言うと、「アスリートが最高のパフォーマンスを発揮できるようサポートするための食事法の1つ」です。
具体的には、「糖質の摂取を“その人に適した量”にして血糖値の乱高下を抑えると同時に、良質のたんぱく質と脂質を積極的にとる」というものです。この食事法を実践することで、たんぱく質の摂取で良好な筋肉の状態を向上・維持しつつ、脂質(ファット)をエネルギー源として上手に使える「ファット・アダプテーション(脂質適応状態)」の体質に移行していくことができます。

食後に血糖値が急上昇することを食後高血糖(血糖値スパイク)などと呼び、近年はそのリスクが大きく取り上げられています。食後高血糖があると心血管疾患による死亡リスクが高くなることが国内の研究からも明らかになっています。さらに、血糖値の乱高下は、集中力や食後の眠気などにも密接に関係します。当然、アスリートのパフォーマンスにも大きく影響します。
普段から糖質を控えた食事をすることにより、食後高血糖を防ぐと同時に、脂質を効率的に燃やしてエネルギーに変えられるような体に適応させていく、というのがファットアダプトです。
これまで「カーボローディング[注1]」をしていたアスリートがファットアダプトに切り替える際には、2~4週間かけて体の主たるエネルギー源を脂質に切り替える必要があります。後で詳しく触れますが、具体的に摂取する1食当たりの糖質量は、アスリートの体質により変わります。
[注1]アスリートの世界で長く主流だったエネルギー摂取方法。試合やレースなどの数日前から糖質を多量に摂取することで筋肉内のグリコーゲン量が上がり、持久力が向上する、という考え方に基づいた食事摂取法。