出産育児もらえるお金を再点検 育休とるなら月末から
いまさら聞けない大人のマネーレッスン
厚生労働省の人口動態統計によると、2018年に生まれた子どもの数(出生数)は91万8397人。過去最低を更新しました。少子化がすすむ今、今後も子育て世帯への支援は続くでしょう。19年10月には幼児教育の無償化がスタートします。経済エッセイストの井戸美枝氏が、出産や育児で休業する際の支援について解説します。
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いくつかの条件を満たす必要がありますが、会社に勤めている人であれば、「出産手当金」と「育児休業給付金」が支給され、さらに社会保険料が免除されます。
社会保険料の免除は、手当金・給付金と比べると地味かもしれません。それでもこれらの保険料が免除されれば、家計の一助になることは間違いありません。給与明細に記載されている社会保険料をチェックしてください。
また、男性が育児休業を取得する際、「月をまたいで取得する」あるいは「ボーナスが支給される前後に取得する」と、免除される保険料が多くなります。育児休業の取得を考えている人は、要チェックです。
その他、出勤日数が月10日以内などの条件を満たせば、給付金や社会保険料免除を受けながら、働くこともできます。こちらも併せてご確認ください。
産前・産後にもらえるお金
まずは、産前・産後にもらえるお金をみてみましょう。
産前・産後に休業して、会社から給与が支払われないときは「出産手当金」が受け取れます(※)。対象となる人は、会社に勤めており、勤務先の健康保険に加入している人。健康保険に加入していれば、正社員、契約社員、アルバイトなど、雇用形態は問いません。出産に関する手当ですので、女性のみが対象です。
(※)休業中に支払われた給与が、出産手当金より少ない場合は、その差額が支給されます。
支給額は、それぞれの給与をもとにして算出され、おおむね休業前の給与の3分の2程度です。
(支給開始日の以前12カ月間の各標準報酬月額を平均した額)÷30日×(2/3)
受け取れる期間は、最大で出産以前42日と出産日の翌日以降56日の範囲内です。出産予定日より遅れて出産した場合も支給の対象になります。
育児休業中にもらえるお金
つづいて、育児休業中にもらえるお金です。
女性は、出産日から56日までは、いわゆる「産休」、57日以降の休業が育児休業いわゆる「育休」として扱われます。男性の場合は、出産予定日の前後から育児休業を取得することができます。
育児休業中、会社から給与が支給されないときは「育児休業給付金」が受け取れます(※)。対象となる人は、雇用保険に加入していて、育児休業開始前の2年間のうち、1カ月に11日以上働いた月が12カ月以上ある人。雇用保険に加入していれば、雇用形態は問いません。
(※)育児休業中に、会社から休業開始前の80%以上の給与が支給された場合は、育児休業給付金は支給されません。また休業前の13%超の給与を受け取ると、減額の対象となります。
支給額は、育児休業の取得開始から180日までは休業前の給与の約67%、181日目以降は約50%が支給されます。育休開始から6カ月目までとそれ以降で、支給額が変わることに注意してください。
育児休業開始から180日まで 休業開始時賃金日額×支給日数×67%
育児休業開始から181日以降 休業開始時賃金日額×支給日数×50%
受け取れる期間は、通常、子どもが1歳になる誕生日の前日まで。ただし、保育所に入れない、離婚、配偶者の死別などの理由があれば、最長2歳まで延長できます。
父親、母親の2人が育児休業を取得する場合は、子どもが1歳2カ月になるまでの育児休業に対して、それぞれ最長1年間支給されます。
また、育児休業中であっても、勤務日数が月10日以下であれば、育児休業給付金を受け取ることができます。たとえば、復職前に少しずつ働き始める……といったことも可能です。
ただし、その際の給与が休業前の賃金の13%を月額で超えると、給付金が減額されます。どの程度働くか、勤務先に相談するとよいでしょう。
社会保険料は全額免除
出産や育児の休業中は、上記の出産手当金、育児休業給付金に加えて、社会保険料が免除されます。先述しましたが、給与明細書に記載されている社会保険料の支払いが全てなくなる、と考えてください。
具体的には、厚生年金保険料と健康保険料の支払いが免除されます(40歳以上の人は介護保険料も免除されます)。雇用保険料は、無給であれば支払う必要がありません。
もちろん、免除を受けている期間も、それぞれ被保険者としての資格は継続されます。休業前と同様、健康保険を利用できますし、厚生年金も被保険者としての資格が継続し、免除された期間も保険料を払ったものとして計算されます(将来受け取る年金額が減ることはありません)。
ちなみに、これらの社会保険料は会社と従業員で折半していますが、会社側が支払う保険料も免除されます。
育休の取得は可能であれば月末に
男性が育児休業を取得するとき、タイミングによって、社会保険料の免除額が変わることがあります。調整が可能であれば、「月をまたいで取得する(月末から取得する)」ことをおすすめします。
というのも、育児休業期間の社会保険料免除は、月単位で日割り計算はしません。そして「育児休業を取得した月から育児休業を終了した日の翌日の属する月の前月まで」と定められているからです。
たとえば、7月1日から7月14日まで、14日間の育児休業を取得した場合、免除の対象は前月の6月分までになります。しかし、6月は育児休業を取得していませんから、社会保険料は免除されません。
これに対して、1日だけ開始日を前倒しして6月30日から7月13日まで、といったように月をまたいで育児休業を取得すると6月分の保険料が免除されます。同じ14日間の育児休業でも、タイミングによって免除されたり、されなかったりすることがあるのですね。
よって、育児休業を取得する場合、可能であれば、月末から月をまたいで育児休業を取得するのがいいというわけです。
極端なケースですが、月末の最終日に育児休業を取得すれば、たった1日の育児休業でも、1カ月分の社会保険料が免除になります。先述した「育児休業を取得した月から育児休業を終了した日の翌日の属する月の前月まで」という運用ルールがあるためです。
ただし、休日に育児休業は取得できませんので、月末最終日が休日である場合は注意して下さい。
また、ボーナスが支給される月に育児休業を取得すれば、ボーナスに掛かる社会保険料も併せて免除になります。仮に、7月にボーナスが支給される場合は、8月まで育児休業を取得するとよいでしょう。前月の7月分のボーナスに掛かる社会保険料も免除を受けることができます。
勤務先を通して申請 出産前に確認を
これらの手当金・給付金、社会保険料の免除は、勤務先を通じて、健康保険組合やハローワーク、年金事務所に申請されます。支給期間、支給額など、わからないことがあれば、勤務先に相談しましょう。
出産後、そのまま育児休業を取得する場合は、「産休」と「育休」それぞれ別の申請が必要になります。産休前に、勤務先へ手続きの方法を確認しておくとスムーズでしょう。育休を延長する場合も、手続きが必要になりますので、勤務先へ確認してください。予定より早く復職する場合は「健康保険・厚生年金保険育児休業等取得者終了届」を提出します。
さて、ここまで紹介した制度は、会社に勤めている人を対象とした支援でした。近年増えている自営業者やフリーランスに、こうした支援はありません。
19年4月から、産前・産後の4カ月間の休業中のみ、国民年金保険料の免除の対象となりましたが、それ以降、育児で休業する場合でも免除にはなりません。国民健康保険にも免除の仕組みはなく、休業する際はシビアに考えて備える必要があります。
ファイナンシャルプランナー(CFP)、社会保険労務士。講演や執筆、テレビ、ラジオ出演などを通じ、生活に身近な経済問題をはじめ、年金・社会保障問題を専門とする。社会保障審議会企業年金・個人年金部会委員。確定拠出年金の運用に関する専門委員会委員。経済エッセイストとして活動。近著に「5年後ではもう遅い!45歳からのお金を作るコツ」(ビジネス社)、「身近な人が元気なうちに話しておきたいお金のこと介護のこと」(東洋経済新報社)、「100歳までお金に苦労しない定年夫婦になる!」(集英社)、「届け出だけでもらえるお金」(プレジデント社)など。
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