リーマン級調整が来たら「買うだけよ」(澤上篤人)さわかみ投信会長

日経マネー

草刈 最近思うのは、大きな調整の時に我々が企業を支えないと、社会全体が後でツケを払うことになりかねないということです。暴落時には、本当に優良な企業や、本業で社会課題を解決している企業、地域社会の活性化に欠かせない企業などもまとめて叩き売られます。

社会を支えてきた企業が、収益しか考えない投資家に主導権を奪われ、経営をねじ曲げられてしまうということは往々にしてあります。日本を代表するある上場企業のオーナー経営者の方でさえも「株価が暴落した時、真っ先に頭をよぎるのは買収に対する不安」とおっしゃっていました。

嵐が過ぎ去っていざ経済を立て直そうと思った時、社会が必要とする優良企業が残っていなかったら、それこそ目も当てられません。長期投資家は投資家というより、資本家としてのスタンスでいますから、そういう時こそ買い支える側に回りたいですね。

経済活動はなくならないのに

澤上 ところで投資家やマーケットは、やたらと大きな調整を恐れるが、何がそんなに怖いのだろう?

草刈貴弘氏(左、撮影:竹井俊晴)

草刈 目の前で株価が下がり続けると、どうなってしまうのかと不安な気持ちになるのは分かります。ただ、投資家としては、調整理由を分析して、冷静に対処するしかすべはない。なのに「どうしようどうしよう」とパニックに陥り、その様子が周囲を不安な状態に引きずり込む。不安が不安を呼ぶけど、そもそも何で不安だったかは忘れてしまった。『星の王子さま』の一節に出てくるような話かと。

澤上 どんな暴落相場が訪れようと人々の生活は続くし、それを支える企業の経済活動はいっときとして止まらない。なのに、株価だけは大慌ての投げ売りで派手に下げる。大きな調整と言っても、その程度のことだよ。ただ、暴落時の行動は本物の長期投資かどうかの試金石になるけどね。

草刈 金融市場が波風で揺らぐと、実体経済にはその何倍もの大波が襲いかかります。だからこそ、金融市場はどっしりと構えて、目先の波風から大きな影響を受けてはならない存在のはずです。

今、世界では「ユニコーン」と呼ばれる非上場のベンチャー企業への投資が加速していて、ユニコーンたちはIPO(新規株式公開)に列をなしています。背景にあるのは世界的なカネ余り。次の大きな調整は「ユニコーン・ショック」と命名されるかもしれません。

ユニコーン・ショック後も経済活動は続くのでしょう。むしろ時代が変わるきっかけになる気もします。IT(情報技術)、スマートフォン、AI(人工知能)と時代の主役は代ってきましたが、次は何が来るのか楽しみでもあります。

澤上 経済活動も株式市場も実態から離れてしまっている部分が目立つ。次の調整では、その乖離(かいり)が吹き飛ぶだろう。大量増発で通貨の価値が大きく毀損しているという現実も経済に襲いかかるかもしれないし、あり得ないと言っているインフレに火が付くかもしれない。

ここらまでは、我々長期投資家にとっては想定内のこと。大混乱に陥ったマーケットで、ひとり気を吐いているんだろうね。

草刈 最近、アクティビスト(物言う株主)でもないのに日本企業に物申す海外投資家が増えています。彼らは、「現状を放置すると日本企業も株式市場も衰退する。言うべきことは言う。売り逃げは投資家としての責任の放棄だ」と憤っています。そんなことを言える投資家が日本にいないのが残念です。

海外投資家が何とかしてくれる、国がどうにかしてくれる、否、国が支えるべきだなどと考えるのはもうやめて、自分たちで日本の企業と市場を支えるという気概を持つべきです。さもなければ次の荒波でゾンビ企業はもちろん、優良企業までもが金融に引きずり回されてしまいます。そうなった時、一番苦しむのは普通の市民なのです。

澤上篤人
1973年ジュネーブ大学付属国際問題研究所国際経済学修士課程履修。ピクテ・ジャパン代表取締役を務めた後、96年あえてサラリーマン世帯を顧客対象とする、さわかみ投資顧問(現さわかみ投信)を設立
草刈貴弘
2008年入社。ファンドマネジャーを経て13年から最高投資責任者(CIO)

[日経マネー2019年8月号の記事を再構成]

これまでの「カリスマの直言」の記事はこちらからご覧ください。

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著者 : 日経マネー編集部
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