美しすぎるおはぎ 自慢したくなる「映える」スイーツ
近年、SNSで「映える」スイーツが拡散され話題になっていることが多い。中でもインスタグラムではスイーツ投稿がかなり目立つ。若者の間で、派手に「盛られた」斬新なものが話題になる一方で、インスタグラムの中高年利用も増えてきている今、おはぎやラングドシャなど以前からあるスイーツまでも進化を遂げている。今回は昔からある定番スイーツだが、見た目も味わいも時代とともに進化を遂げているSNS発の進化系スイーツをピックアップしよう。フォトジェニックな見栄えはもちろん、作り手の技術力や斬新な味わいが輝く3店のスイーツを紹介する。
東京の桜新町駅と学芸大学駅の近くに2店舗を構えるおはぎ専門店「タケノとおはぎ」では、2016年から季節に合わせた独創的な手作りおはぎを販売している。その美しさはSNSでも注目を集めている。
まずはそのラインンップに注目。おはぎの一般的な素材である「つぶあん」と「こしあん」(各180円・税込み)に加え、日によって替わる季節折々の創作おはぎが5種。合計7種を店頭で販売している。その5種は自家製の白あんをベースに、ドライフルーツやラム酒などのリキュール、ナッツ(クルミやカシューナッツなど)、スパイス(コショウやクミンなど)、さらには味噌や奈良漬といった従来のおはぎでは使ってこられなかった斬新な素材を使っており、まさにここでしか味わえないおはぎとなっている。
例えば7月のおはぎは、白あんとブルーベリーピューレを練り合わせた青い「紫陽花」や、「仙台味噌の紫蘇(しそ)まき」といった塩気を利かせたものなど。甘いだけでなく、塩味の利いたものや風味豊かなものもそろえ、その意外性も話題だ。ちなみにこれら創作おはぎの価格は、1個当たり税込み250~330円前後。
「その日の気温や天候、仕入れの具合を見ながら、日々感じたままにアイデアを出しています」と話すのは、同店の小川寛貴さん。小川さんはもともと、同店の隣で欧風デリカテッセンを経営していた。洋風の食材選びの感覚はそのままに、「子供の頃食べた祖母のおはぎが大好きなので作りたい」(小川さん)という思いから、同店をオープン。他にはない美しいおはぎはSNSで拡散され、一躍人気店となったのだ。
中には、小さくかれんな花や、バラのような大輪の花をデザインしたものもあり、そのシルエットにも目を奪われる。「あんをホイップクリームの要領で絞り出して形を作っていますが、粘度が高いため絞り出すにも力とテクニックが必要なのです。1つずつ手作りしているので、簡単ではないです」と小川さん。
次は花をかたどったスイーツが話題の洋菓子店「TOKYOチューリップローズ」(東京・池袋)。看板商品のスイーツ「チューリップローズ」は、ラングドシャクッキーを曲げてチューリップの形にしたもので、SNS上などでも「食べるのがもったいないくらいきれい!」との声が上がっている。
緩やかなカーブを描く、薄いラングドシャクッキー1枚を立体的に折り重ねてつくったチューリップ型。その中に、軽い歯ごたえのパイ、さらにその上にふわっとした食感のホイップショコラを入れ、見事にバラの見栄えに作り上げている。薄く繊細なラングドシャとホイップショコラは口どけがよく、口に含むとあっという間になくなり重くない。
「お客様がご来店されたときすてきな体験ができるようなお店にしたいと考え、スイーツの世界ではありそうでなかった『花のお菓子』を作ることにしました。フランスで修業を積んだパティシエの金井理仁が手掛ける形は最高に美しく、味ももちろん最高です」と同店を経営するグレープストーン広報・PR担当の合田周志郎さん。
今年1月に名古屋の百貨店で行われたバレンタインイベントで販売を開始し、3月に西武池袋本店に店舗をオープンさせると、SNSで見たという人が連日行列を作る状態となっている。
「『インスタグラムで見かけてずっと気になっていた』と楽しそうにご来店されるお客様が多く、SNSの効果は大きいですね。芸能人の方もSNSにアップしてくださっているので、その投稿を通じて広まっていると感じます」(合田さん)。
「やはり技術的に難しかったのは、ラングドシャクッキーをチューリップ型に成型することと、ホイップショコラでバラを表現することですね。試行錯誤を重ね、ラングドシャクッキーを素早く形を整えて湾曲に固め、ホイップショコラを絞るための口金の形状を工夫することで、チューリップとバラの持つかわいらしさ、きれいさを表現しました」と合田さん。
見た目の華やかさから「大切な人に贈りたい」との声が多く、手土産だけでなくバレンタインデーなどの贈り物にもぴったりだ。7月30日にはJR東京駅八重洲中央改札内に2店舗目をオープンするという。
東京・日本橋にあるホテル「マンダリン オリエンタル 東京」内の「ザ マンダリン オリエンタル グルメショップ」でも不思議な形で話題のケーキを販売中。まるで雲のような、その名も「KUMO」だ。
絵本から飛び出てきたようなかわいい形と見事な立体感で、SNSでも「かわいすぎる!」「雲モチーフがすてき」という声が多数。1日数量限定で店頭に並ぶとあって、この「KUMO」目当てで同店を訪れる人も多いようだ。
雲を形作っているのはパリッとコーティングされたホワイトチョコレート。フォークを軽く刺してみると、コーティングのチョコレートが割れるような感覚。中には軽い食感のスポンジやムース、ジュレなどが入っており、春はイチゴ、夏はマンゴーといった季節に合わせたフルーツや食材が合わせてアレンジされている。
ケーキとしては大きめだが軽いので、あっという間に一人で平らげてしまう。また、ざくざく、しっとり、ふんわりといったいろいろな食感が一度に楽しめる。8月末まではマンゴーで、9月からはクリのKUMOになる予定だ。
「この形は当店のエグゼクティブ・ペストリーシェフにステファン・トランシェが就任した際、軽いケーキを作りたいと考え、空に浮かぶ『雲』にインスピレーションを得たのがきっかけです」(エグゼクティブシェフのダニエレ・カーソンさん)とのこと。
「ステファンのイメージする形を完全に再現するのは、決して簡単ではありませんでした」とダニエレ・カーソンさん。「試行錯誤を重ね、最終的に型をオーダーメードすることで、愛らしい丸みのある形を作り出すことができました」(ダニエレ・カーソンさん)。味のバランスも完璧に、かつ繊細に仕上げるため、毎日数量限定での提供となっているとのこと。
おいしさはもちろん、確かな技術によって作り出された愛らしい形に、海外からの観光客にも評判がよいそうだ。チョウがあしらわれているのでかわいらしく、思わずカメラを用意してしまう。
今回紹介したスイーツのように、SNSでの見栄えが重視される時代だからこそ、以前からあるスイーツもフォトジェニックで新鮮なものに進化してきている。既存の枠にとらわれない工夫やひらめきがSNSで拡散されて世界中に知れ渡り、一躍有名店になることも多い。どんなものがSNSで注目を浴びるのか、これからも目が離せない。
(フードライター 屋口芳実)
ワークスタイルや暮らし・家計管理に役立つノウハウなどをまとめています。
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