もらっても困るんだけど… 日本人が戸惑うgiveの用法
デイビッド・セイン「間違えやすい英語・聞き手編」(8)give
相手が話した英語を誤解して受け取ってしまった。そんな体験はどなたにもあると思います。日本人向けの英語教育で豊富な経験を持つデイビッド・セインさんは「日本人が聞き手として勘違いしやすい英語表現がある」と言います。今回は、知っているようで知らない動詞giveについて見てみましょう。
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あるオフィスでの出来事です。ユウカが同僚のスティーブに、ホチキスを貸してほしいと頼みました。スティーブは「どうぞ」と手渡そうとしたのですが、それに対してユウカは奇妙なことを言います。「そんなことしなくていいのに」と、借りたいんだか借りたくないんだか、よく分かりません。どうやらある言葉の意味を知らなかったことが、混乱の原因だったようですが……。
それはこんな会話でした。
Steve: Sure. Let me give it to you.
Yuka: Oh, you don't need to give it to me.
Steve: Why not?
Yuka: I just wanted to borrow it.
Steve: So, I'll give it to you.
Yuka: No, no. It's yours.
Steve: Well...
日本語にすると、おかしなやりとりがなされたことが分かります。
スティーブ:いいよ。いま貸すからね。
ユウカ:あら、貸してくれなくていいのよ。
スティーブ:なんで?
ユウカ:ただ借りたいだけだから。
スティーブ:だから、貸すんだけど。
ユウカ:いえいえ。あなたのものでしょ。
スティーブ:そうだけど……。
ホチキスは英語ではstaplerと言います。Do you have a stapler I can use?(私が使えるホチキスはありますか?)は、他の物に置き換えて応用すれば、何かを借してほしいときの便利な依頼表現となります。これに対する回答のSure. Let me give it to you.のうち、giveは「与える」「あげる」という、誰にとっても分かり切った意味を持つ簡単な語に思えます。だからこそ、想定外の使われ方をすると不意打ちのようになって、意味の推測が難しくなるかもしれません。日本語では「あげる」と「貸す」はまったく別の言葉ですので、ユウカはこのgiveという動詞を「日本語の感覚」で受け止めてしまいました。この言葉を聞いた彼女は、心の中で次のように思ったのでした。