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尾ビレのないクジラの目撃例増える いったいなぜ?

日経ナショナル ジオグラフィック社

2019/7/26

ナショナルジオグラフィック日本版

尾ビレ(尾)が切れて失われたクジラの目撃例が増えている。

クジラ生物学者のアリサ・シュルマン=ジャニガー氏が最初に目撃したのは1985年のこと。メキシコ沖でコククジラと出会い、水中から堂々たる尾ビレが現れると思ったそのとき、彼女の目に映ったのは、痛々しい傷跡だった。

「あぜんとしました」と語るシュルマン=ジャニガー氏は、米国鯨類協会でコククジラの個体数・習性調査プロジェクトを推進している。

それ以降、北米西岸沖では尾のないクジラが幾度か目撃されてきた。ところが2018年に入って、尾のないコククジラが少なくとも3頭、カリフォルニア沿岸で目撃されている。頻度が増えているようなのだ。

目撃されたコククジラには、シャチに襲われたり、船と衝突したりといった形跡は見られず、怪我の原因はおそらく漁具が体にからまったこととみられる。

クジラが漁具などの人工物が多い場所で餌を食べようとすると、ロープや網が尾の付け根にからまって、尾が徐々に切り離されたり、血流が遮られて尾が腐敗して落ちたりしてしまうことがある。

尾を失ったクジラの末路は悲惨だ。「大半は怪我がもとで死んでしまうと思われます」と、米海洋大気局でカリフォルニア座礁ネットワークのコーディネーターを務めるジャスティン・ヴィーズベック氏は言う。

尾がない状態で、餌をとるのは難しい。コククジラは尾を推進器として使いながら、泥が積もった海底に頭から突っ込んで小型の甲殻類を濾(こ)しとる。

コククジラはまた、メキシコにある繁殖場からアラスカの餌場まで長距離を回遊するが、力強い尾がなければこの長旅は極めて困難なものになる。尾のない母親は、子供をシャチから守ることもできない。

一方でシュルマン=ジャニガー氏は、クジラがハンディキャップに適応する能力には驚くべきものがあると語る。

尾のないコククジラは、呼吸のために海面に上がってきた後、まるでコルク用の栓抜きのように右方向へ体をくねらせて、再び水中に潜るための推進力を得る。

シュルマン=ジャニガー氏がとりわけ感心したというある雌クジラは、数年間にわたって幾度も目撃され、ときには子供を連れていることもあったという。「あのクジラがどうやってはるばるアラスカまで移動できたかはわかりません」とシュルマン=ジャニガー氏は言う。

(日経ナショナル ジオグラフィック社)

[ナショナル ジオグラフィック 2018年5月10日付記事を再構成]

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