生徒の頭髪や服装を過剰に規定する校則が問題になっている。専門家が人権侵害の可能性を指摘する一方、必要性を説く声も根強い。教師と生徒、保護者が一緒に校則を考える動きも出てきた。
人権無視、セクハラまがいも
「下着の色、白じゃないよね。気をつけて」。西日本の公立中に通う3年の女子生徒は昨年、生徒指導担当の男性教師に注意された。同校では女子生徒の下着の色は白と決まっているが「教師とはいえ男性。ブラウスから透けて見えたようで、セクハラを受けた気分になった」という。
「ブラック校則 理不尽な苦しみの現実」(東洋館出版社)の共著者で名古屋大学大学院准教授の内田良さんは「生徒の人権を無視するような校則が放置されている」と指摘する。
教師がスカートをめくって丈の長さを確認したり、「汗をかく」という理由で体育の授業時は下着を着用しないよう指導したり。同書の共同編著者の荻上チキさんらが昨年、10~50代の2000人に中高時代の校則について聞いたところ、セクハラや人権侵害ともとられかねない実態が浮かびあがった。生徒の訴えにも「校則だから」の一点張りだったとの声もあった。
管理のためのツールに
文部科学省は校則について「児童生徒が健全な学校生活を営み、より良く成長・発達していくため、各学校の責任と判断の下にそれぞれ定められる一定の決まり」と規定。各校の判断に任せているのが実情だ。
「教育のための校則が、生徒管理のツールになっている」。関西の公立中で教える40代の男性教師は指摘する。男性はツイッターで4万人のフォロワーに現場の実情を発信している。
1980年代、校内暴力が社会問題になって全国的に校則が厳しくなった。20年ほど前に教師の体罰が問題視されたことで、「手をあげられない代わりに」服装や頭髪についての校則が強化されたという。
潮目が変わったのが2017年。大阪の府立高の女子生徒が生まれつき茶色い髪を黒く染めるよう強要されたとして学校を提訴し、注目された。府は事実誤認があるとして係争中だが「一部の教師が校則の理不尽さに気付くきっかけになった」(男性教師)。
忙しすぎる先生たち 働き方改革が急務
ただ、問題意識を持ってもすぐに対応するのは難しい。経済協力開発機構(OECD)の調査では日本の教員の仕事時間は小学校が週約54時間で15カ国・地域最長、中学校が同56時間と48カ国・地域最長。部活やテスト採点など課外活動が多く、月150時間超の残業をこなす教師もいる。
内田さんも「校則を変えるには生徒と教師が協議する場が必要だが、先生が忙しすぎて対応できない」と指摘。校則問題の解決には「教師の意識改革と教育現場の働き方改革の2つが必要」と訴える。
生徒と教師、保護者の3者で校則をつくる動きもある。大東学園高校(東京・世田谷)は年2回、3者が協議会を開く。サイド部分だけを刈り上げる髪形「ツーブロック」は禁止されていたが、生徒から声があがり、3者で話し合って17年に解禁。これまでに約10の校則を改定した。
今年7月13日に開いた会議には3者約120人が参加。生徒会長の倉沢夏樹さんは「校則に縛られるのではなく先生と同じ学校の一員としてルールを作っていきたい」と笑顔をみせる。
校則の必要性を訴える声も根強くある。福岡教育連盟は6月、「校則は本当にブラックか?」という文章をネット上で発表した。執行委員長で県立高校の生徒指導を担当する藤野英二さんは「校則は生徒を守るためのもの」と話す。「頭髪や服装など社会にはルールがある。学校はその準備期間として、規則を守ることの大切さを教えている」
ただ、藤野さんは一方で「時代の変化に応じて校則を変えることも必要」と指摘。何が生徒を守るルールで何が理不尽なブラック校則なのか。一方的に規則を押し付けるのではなく、まずは生徒の意見に耳を傾けることが必要だ。
生徒の自主性を重んじる学校もある。東京都千代田区の麹町中では5年前に工藤勇一校長が着任し、服装や頭髪の基準を撤廃。工藤校長は「校則について考える時間が無駄」とその理由を語る。
工藤校長が重視するのは生徒の自主性と多様性だ。「校則の厳しい学校にありがちな『服装の乱れは心の乱れ』という考えは幻想」と切り捨てる。「すでに理解している問題を強制的にやらせても意味がない」と宿題も廃止した。「生徒には自分に必要な勉強は何かを考えてほしい」と話す。麹町中には全国から多くの教師が視察に訪れる。
東京都世田谷区の桜丘中も校則を廃止し、制服の着用も生徒の自由に。こうした学校はまだ少ないが、工藤校長は「日本の教育には無駄がたくさんある。そのことに気付く学校は増えていくだろう」とみている。
(宇都宮想)
[日本経済新聞夕刊2019年7月19日付を再構成]