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AIが普及する時代には芸術感覚が強みになる。写真はイメージ=PIXTA

AIが普及する時代には芸術感覚が強みになる。写真はイメージ=PIXTA

人工知能(AI)に関する本には脅迫めいた説が少なくない。とりわけ目立つのは「仕事が奪われる」というものだ。しかし、『AIに勝つ! 強いアタマの作り方・使い方』(日本経済新聞出版社)を書いた野村直之氏は「AIは人間を助ける、便利な道具。人間に取って代わるわけではない」と説く。AIを深く知る野村氏に、AIにまつわる「本当のところ」を尋ねてみた。

数年以内に多くの仕事がAIに置き換わる?

おどろおどろしい語り口で「AIに取って代わられる」「職場ごと消滅する」と、読み手を怖がらせるAI本が書店にひしめいている。だが、「本当にAIを理解している書き手はあまりいない」と、野村氏はそもそも書き手に資質が足りないと指摘する。確かにかねて国内AI人材の圧倒的な不足が問題視されているのだから、これほど多くのAIプロフェッショナルがいるはずもない。「大半の書き手は基本的なAIの仕組みすら誤解しているケースが多い」(野村氏)

30年以上にわたって、AI研究に携わってきた練達のエキスパートだ。米マサチューセッツ工科大学(MIT)の人工知能研究所客員研究員も務めた。MIT時代には「人工知能の父」といわれるマービン・ミンスキーとも議論を交わした。MITの言語学者、ノーム・チョムスキー氏にも師事した。現在はAI関連企業を率いるほか、東京大学大学院の医学系研究科にも研究員として籍を置く。だからこそ、最新の研究成果に基づかない便乗者や半可通の「AI論もどき」に冷ややかなまなざしを送る。

ビジネス現場へのAI実装に関しても、的外れな記述がざらだという。「切った張ったの仕事現場に、AIをそのまま持ち込める段階には至っていない。1人の人間の業務をほぼ丸ごと置き換えるような形でのAI実装については、それが可能な時期すら見通せていないというのが専門家のほぼ共通した見方。数年以内に多くの仕事がAIに置き換わるというのは、ビジネスの現実を知らない人の空想に近い」という。野村氏は自ら社長を務めるAI関連企業で企業向けのAI導入ソフトやサービスの開発業務を手がけていて、企業の実態に通じている。NECやジャストシステム、リコーなどに勤務した経験もあり、ビジネスとAIの連携をリアルに語りうる存在だ。

「すべての情報が言語化されているわけではない」

ヒト・モノ・カネに情報を加えた企業の資源を有効活用するために「統合基幹業務システム(ERP、Enterprise Resource Planning)」というシステムがある。日本ではこのERPのパッケージ商品が欧米のようには成功しなかった。これは先進国でほぼ唯一の例だと野村氏はいう。普及を妨げた一因に挙げられるのが、言語化されていない「暗黙知」の多さだ。日本のビジネス現場では、マニュアルや契約書が欧米ほどには精緻に作られず、見よう見まねで業務ノウハウが伝承されてきた。文書化された「形式知」と、空気のような暗黙知が複雑に入り組んでいる。「多数の専門知識ごとに、きれいに整備された正解データを必要とするAIが簡単に受け継げる環境ではない」(野村氏)

教え込まれたデータ次第で、AIの導く結論は異なる。「すべての情報が言語化されているわけではない。日本のビジネス現場には暗黙知が多い」(野村氏)。たとえば、社長の子供が本社の後押しを受けて起業したベンチャー企業は、歴史の浅い企業であっても、見えない「後ろ盾」を持つ。だが、データ上では「設立ゼロ年、売上高ゼロ円」の赤ちゃん企業だ。AIがこの企業への融資許容度を低く見積もってもしかたがない。でも、事情を知る地元金融機関の融資担当者は別の判断を示すだろう。「業務フローがはっきりしていない職場にAIを持ち込むのは危険ですらある」と、野村氏は警告する。

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