「国歌独唱」は歌い出しの音が一番難しい(井上芳雄)第48回

日経エンタテインメント!

6月10日に催された「オーストリア共和国有功栄誉金章」の伝達式で。左から小熊節子さん、井上芳雄さん、山口祐一郎さん、オーストリアのフーベルト・ハイッス大使、小池修一郎さん、一路真輝さん、花總まりさん

名誉なことがもうひとつ。6月10日にはオーストリア政府から「オーストリア共和国有功栄誉金章」を授与されました。『エリザベート』と『モーツァルト!』が日本で成功を収めたことで、オーストリアの歴史・文化を広めた功績とのことです。

演出家の小池修一郎さん、俳優の山口祐一郎さん、一路真輝さん、花總まりさん、プロダクション・コーディネイターの小熊節子さんと一緒にいただきました。素晴らしい勲章をいただき、感謝の気持ちでいっぱいです。宝塚版、東宝版のそれぞれに深く関わられて、日本の『エリザベート』の歴史を築かれてきた先輩方の中に、一番年下の僕が入るのはおこがましいのですが、これを機にいっそう頑張りたいと思います。

「オーストリア共和国有功栄誉金章」

勲章の伝達式と記念レセプションは、東京・麻布にあるオーストリア大使公邸で催されました。久しぶりにお会いする方もたくさんいらっしゃっていて、19年前に『エリザベート』の皇太子ルドルフ役でデビューしたころを思い出しました。

実は、2000年の東宝版『エリザベート』初演の制作発表会場が、同じ場所でした。当時、僕は東京藝術大学の学生で、公の場に出るのは初めての経験。制作発表がどんなものか分からないし、衣裳もないので、大学の入学式に着たスーツ姿でタクシーに乗り、「オーストリア大使館に行ってください」と言ったら、着いたのは近くにあるオーストラリア大使館。時間ぎりぎりだったので、「ペーペーの自分が遅れるわけにはいかない」と大慌てでオーストリア大使館に駆け込んだのを覚えています。それを懐かしく思い出して、大使に話をしたら、「ここに来る半分くらいの人が、その経験をしています」って。

自分にできるのはつなぐ役割

あれから19年がたち、『エリザベート』は再演を重ね、本当に多くのお客さまから愛されている特別な作品になりました。今年も6月から8月まで帝国劇場で上演しています。僕はルドフル役を2005年に卒業して、2015年版からは初演で山口さんが演じた黄泉の帝王トート役で出演しています。まさか19年後に自分がトートを演じているとは、当時は想像もできませんでした。オールスターゲームで国歌独唱をするようになることもです。

今では『エリザベート』のカンパニーでも上のほうの立場になり、後輩からは「芳雄さん」と呼ばれています。でも、伝達式で先輩たちと並ぶと、当時は一番下だったなと思い出して、それは今も変わらないので、勲章をいただくのは本当におこがましい立場ではあります。

それでも、自分にできることがあるとすれば、つなぐ役割なのかなと思っています。先輩たちが築き上げてきた『エリザベート』という素晴らしい作品を、次の世代へ伝えていくのもそうだし、ミュージカルを通じて人の思いをつないでいくのが自分の役割だと。今回の勲章も、日本とオーストリアの人たちの心をつなぐ一端を担わせてもらえたということなので、とてもうれしいし、誇らしいことです。ありがとうございました。

井上芳雄
1979年7月6日生まれ。福岡県出身。東京藝術大学音楽学部声楽科卒業。大学在学中の2000年に、ミュージカル『エリザベート』の皇太子ルドルフ役でデビュー。以降、ミュージカル、ストレートプレイの舞台を中心に活躍。CD制作、コンサートなどの音楽活動にも取り組む一方、テレビ、映画など映像にも活動の幅を広げている。著書に『ミュージカル俳優という仕事』(日経BP)。

「井上芳雄 エンタメ通信」は毎月第1、第3土曜に掲載。第49回は8月3日(土)の予定です。

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