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100隻超える「幽霊船団」 眠る湾が海洋保護区に

日経ナショナル ジオグラフィック社

2019/7/29

ナショナルジオグラフィック日本版

米メリーランド州マローズ湾。第一次世界大戦時に建造された木造の蒸気船がひしめいている(PHOTOGRAPH BY JAMES L. STANFIELD, NAT GEO IMAGE COLLECTION)

2019年7月8日、米国メリーランド州マローズ湾の一帯50平方キロメートル弱が、米海洋大気局(NOAA)によって国立海洋保護区に指定された。米国で新しい国立海洋保護区が指定されるのは、ほぼ20年ぶりのことだ。この「マローズ湾・ポトマック川国立海洋保護区」には、第1次世界大戦中の「幽霊船団」や、南北戦争時代の沈没船や、1万2000年ほど前までさかのぼる米国先住民の遺跡もある。

今から100年前、米国各地の造船所で、大量の木造蒸気船が建造された。第1次世界大戦で、ドイツ軍との戦闘に役立てるためだった。

■表舞台に立つことはなかった船たち

1916年、ウィルソン大統領は、大西洋で商船や旅客船を沈めていたドイツ軍のUボートと戦うため、米国緊急造船公社(U.S. Emergency Fleet Corporation)を設立して数百隻の船の建造にとりかかった。しかし、機械や建造の問題が続出し、戦時中に欧州へ向かうことができた船は1隻もなかった。

その後、ほとんどの船は地元企業に買い取られ、ポトマック川沿いに集められたが、やがてマローズ湾に放置された。歴史あるそれらの船は、現在も100隻以上が存在し、なかば沈んだ船は、鳥やコウモリ、魚やビーバーのすみかとなっている。結局、歴史の表舞台に立つことはなかった船だが、NOAAは保護区を発表する際、この船団には、「周辺地域や海洋サービス産業の発展と経済的成長をもたらした戦時中の国家的大プロジェクトが反映されている」と述べた。

この場所が初めて保護区の候補にあがったのは2014年だった。発案したのはメリーランド州の当局と保護活動家たちで、観光業の活性化、教育への活用、雇用促進に加え、連邦予算を得て周辺地域の監視を強化したいというねらいがあった。

しかし、ポトマック川で生計を立てている地元の人々は一時、保護によって規制が強化されることを懸念して反対していた。そのため、長いこと州知事預かりの状態が続くことになった。

マローズ湾はすでに人気の観光スポットになっている。旅行客はカヤックで船の残骸の間を通り抜けたり、ハクトウワシやミサゴなどの野生動物を鑑賞したりすることができる。

国立海洋保護区制度の下では、13の保護区と2つの海洋国立モニュメントが定められ、430の沈没した船や墜落した飛行機が管理されている。NOAAが前回、保護区に指定したのはミシガン州にあるサンダー湾国立海洋自然保護区・水中保護区で、2000年のことだった。マローズ湾・ポトマック川が正式な保護区になるのは、指定から45日が経過してからだ。この間に、下院と上院は保護区の制定に関して公聴会を開くことができる。

(文 NINA STROCHLIC、訳 鈴木和博、日経ナショナル ジオグラフィック社)

[ナショナル ジオグラフィック ニュース 2019年7月10日付]

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