2019/7/23

パワハラ対策が企業の義務に

パワハラ対策の法制化によって、何が変わるのでしょうか? 大きな点は、パワハラによって就業環境が害されることのないよう、労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を事業主が講じなければならない、ということです。具体的には、事業主によるパワハラ防止の社内方針の明確化や周知・啓発をはじめ、苦情などに対する相談体制の整備、被害を受けた労働者へのケアや再発防止などが挙げられますが、今後さらに検討が加えられ、指針で示されることになっています。

そして、事業主は労働者が相談を行ったことなどを理由として、労働者に対して解雇その他不利益な取り扱いを禁じられます。パワハラに関して、事業主による適切な措置が講じられない場合は、是正指導の対象となります。しかし、罰則を伴う禁止規定は盛り込まれていません。一方で、悪質な場合は、企業名の公表ができる規定が設けられました。パワハラに関する紛争が生じた場合、調停など個別紛争解決援助の申し出を行うことができるようになります。

また、企業に対して、パワハラに関する研修の実施やその他必要な配慮をすることの努力義務が定められました。「何がパワハラか」「パワハラを防ぐためにどうすればよいか」といった研修を管理監督者ばかりでなく全従業員に対して行っていくようになるでしょう。

パワハラに関しては、事業主ばかりでなく、国や労働者についても責務が定められました。国はパワハラに関しての周知・啓発を行い、事業主と労働者は問題への理解を深めるとともに自らの言動に注意するよう努めるべきであるとし、私たち1人ひとりの意識や言動が大切である、というメッセージが含まれているといえます。

セクハラ防止対策も強化、4つのポイント

パワハラ対策の法制化とともに、男女雇用機会均等法なども一部改正され、セクハラについてさらに防止対策の実効性を高めるための規定が強化されました。ポイントは、以下の4つです。

1つ目は、セクハラの防止に関する国・事業主・労働者の責務の明確化です。2007年の改正・男女雇用機会均等法において、事業主にセクハラ対策として雇用管理上必要な措置を講じる義務を定めました。それが一歩進んで、セクハラは行ってはならないものであり、事業主・労働者の責務として、他の労働者に対する言動に注意を払うよう努めることが明記されました。

2つ目は、セクハラを相談した労働者に対して事業主の不利益取り扱いの禁止です。

3つ目は、自社の労働者が他社の労働者にセクハラを行った場合、事実確認などの協力を求められたら応じることを努力義務としたことです。あわせて、自社の労働者が他社の労働者などからセクハラを受けた場合も、相談に応じる措置義務の対象となります。セクハラは密室で起こることが多いため、事実確認の難しさが緩和されることが期待されます。

4つ目は、調停の出頭・意見聴取の対象者が拡大されることです。セクハラ被害者が相談しても会社側が適切な対応を取らない場合、都道府県労働局長による紛争解決援助や調停を受けることができます。調停制度について、紛争調整委員会が必要を認めた場合には、関係当事者の同意の有無に関わらず、職場の同僚なども参考人として出頭の求めや意見聴取が行えるようになります。

女性が働き続けるうえで、パワハラ防止対策はもちろん重要ですが、同時に職場でのセクハラやマタハラを根絶することは、大きな意味があります。

さらに注目したいのが、衆議院・参議院の全会一致で可決された付帯決議です。付帯決議では、就活セクハラやフリーランスに対するハラスメント、取引先からのハラスメント、性的指向・性自認に関するハラスメント「SOGI(※)ハラ」などについても、措置を講ずることが明記されました。

(※)「SOGI」(ソジ)は好きになる人の性別を示す性的指向(Sexual Orientation)と、自身が認識する性別を示す性自認(Gender Identity)の頭文字から取った言葉。

今後、あらゆるハラスメントをなくして、1人の人間として尊厳を保ちながら、安心して働けるような社会になること。そのために、こうした防止対策は希望の一歩と言えるでしょう。

佐佐木由美子
人事労務コンサルタント・社会保険労務士。中央大学大学院戦略経営研究科修了(MBA)。米国企業日本法人を退職後、社会保険労務士事務所などに勤務。2005年3月、グレース・パートナーズ社労士事務所を開設し、現在に至る。女性の雇用問題に力を注ぎ、働く女性のための情報共有サロン「サロン・ド・グレース」を主宰。著書に「採用と雇用するときの労務管理と社会保険の手続きがまるごとわかる本」をはじめ、新聞・雑誌などで活躍。
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