中野ジェームズ修一さんは、日本を代表するフィジカルトレーナーの一人。テニスプレーヤーの伊達公子さん、青山学院大学駅伝チームなどのアスリートだけでなく、一般の人に生活習慣病やロコモティブシンドローム(運動器症候群)対策などの指導も行っており、女性の不調に効く運動法をまとめた書籍『女性が医師に「運動しなさい」と言われたら最初に読む本』の著者でもある。そんな中野さんが2019年5月、働く女性を応援するイベント「WOMAN EXPO TOKYO 2019」(主催 日本経済新聞社、日経BP)で行った講演「『運動しなきゃ』と思ってる女性がまずやるべきこととは?」のエッセンスをお届けする。
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「脚が太くなる」から運動をためらう女性

「フィジカルトレーナーとしては、みなさんに運動して健康になってもらいたいのですが、体を動かすのが好きではないという人も多いですよね。駅では、エレベーターやエスカレーターに並んでいる人をよく見かけます。階段を使うこともできるのに、列を作って待っているんですよ。日本人は運動が好きじゃないのかな、と感じてしまいます」と中野さんは話す。
体を動かす習慣のない人はどれくらいいるのだろうか。WHO(世界保健機関)の調査によると、2016年現在、日本では成人男性の33.8%、女性は37%が運動不足と報告されている(調査対象168カ国の平均では、男性は23.4%、女性は31.7%が運動不足)。そしてWHOでは、運動不足によって、糖尿病や心血管疾患、がんや認知症などにかかるリスクが高くなると警告している。
「どうすれば女性のみなさんに運動をしてもらえるのか、考えてみました。長い間、フィジカルトレーナーの仕事をしていて、女性から運動についてたくさんの質問を受けています。あるいは、本もたくさん書かせていただいて、その読者アンケートなどでも、質問が寄せられています。その中に、ヒントがあったんです」(中野さん)
中野さんによると、多くの女性が運動に関して同じような「誤解」を抱いており、それが寄せられる質問にも反映されているという。ここでは、女性にありがちな運動に関する「6つの誤解」を紹介していこう。それぞれの誤解に対する中野さんの回答を見ていくと、運動を楽しく効果的に行うヒントがあるはずだ。
【誤解1】筋トレをすると脚が太くなりませんか?
「女性から『筋トレをすると脚が太くなりませんか?』と質問されることがよくあります。結論から言うと、一般の人が筋トレで脚が太くなることはあり得ません。もし、これで筋トレをためらっているのなら、今すぐ安心して筋トレを始めてください」(中野さん)
中野さんによると、女性は男性ホルモンが少ないので、筋トレによって筋肉を肥大させることが、かなり難しいのだという。男性ホルモンは、筋肉の“設計図”のような役割があり、男性ホルモンが少ない女性が筋肉を太くさせるには、負荷が非常に高いトレーニングが必要になる。
「女性のボディビルダーは、非常に負荷の高いトレーニングを行っていますが、それでも男性のボディビルダーと同じサイズの筋肉になることはありません。また、女性の競輪選手やスキー、スケートの選手の太ももは確かに太いですが、その筋肉は過酷なトレーニングを繰り返して作り上げているものです」と中野さん。
脚のむくみ、二の腕周り… 女性の悩みに運動はどこまで有効か
【誤解2】脚がむくみやすいので運動したくありません
「脚がむくみやすい女性はたくさんいます。それが原因で運動したくないと言うのですが、実は、筋力が不足していることが、脚のむくみを引き起こしているのです。ですから、脚がむくみやすい人ほど、筋トレをして脚の筋力をつけることが大切なのです」(中野さん)
脚のむくみはどのようにして起こるのだろうか。脚の静脈の中を血液が重力に逆らって流れるためには、筋肉が血管の周りで収縮・弛緩を繰り返して、血液を押し出すことが欠かせない。筋力が衰えると、その効果が小さくなるので、血液が滞りがちになり、脚がむくみやすくなるのだ。
実は、筋力不足によって起こる女性の不調は多い。脚のむくみ以外にも、肩こりや腰痛がそうだ。また、女性に多い皮下脂肪型肥満を解消するには、ただ有酸素運動を行うよりも、筋トレで筋肉量を増やしたほうが効率がよい(詳しくは後述)。筋トレが苦手という女性は多いが、きちんと筋トレを行うことが健康のために重要なのだ。
【誤解3】二の腕やぽっこりおなかの“部分やせ”はできますか?
「二の腕やおなかについた脂肪を落とそうとして、上腕三頭筋や腹筋群のトレーニングをする人は多いですよね。ですが、そういったトレーニングを行っても、“部分やせ”は原理的に不可能なのです」(中野さん)