睡眠中に角度が変わるベッド 硬さを調整、眠りも測定
奈津子の家電選び後輩目線
医療・介護用寝具で知られるパラマウントベッドから、眠りにつくときと眠った後で、ベッドの角度が自動的に変わるというベッドが登場した。「眠りへの最適解」を追求して生まれたというこのベッドの「寝心地」を確認するため、家電総合アドバイザーの資格を持つ「家電女優」の奈津子さんがホテルで実際に一晩を過ごしてみた。
◇ ◇ ◇
みなさん、しっかりと睡眠をとっていますか?
我が家は先日、睡眠の質を向上しようとクイーンサイズのベッドを奮発して購入しました。ですが、店頭で何度も試したにもかかわらず、夫婦ともに硬く感じてしまい眠れないという事態に。今は別売りのパッドを敷いてしのいでいます。
ただでさえ仕事柄、周囲がまだ真っ暗な午前4時前に起きて現場へ向かう早朝ロケも多く、どうやったら少しでも快適に眠れるかは長年の課題でした。
そんな悩みを解決できる家電はないのでしょうか。あれこれ調べていたところ、パラマウントベッドが2019年3月に発売した「Active Sleep BED(以下:アクティブスリープベッド)」という製品を見つけました。このベッドがユニークなのは、眠るとき、眠った後、起きるときでベッドの角度が自動的に変わるということです。しかも、マットレスの硬度まで微調整できるというではありませんか。
調べてみると、この製品はベッド本体である「アクティブスリープベッド」、硬さを変えられるマットレス「Active Sleep MATTRESS」(以下、アクティブスリープマットレス)、そして心拍、呼吸、体動などから眠りを採点する「Active Sleep ANALYZER」(以下、アクティブスリープアナライザー)という3つの製品で構成されているそうです。
開発目標は、ずばり「眠りへの最適解」。はたして本当に安眠につながるのでしょうか。同社のショールーム「眠りギャラリーTOKYO」を訪れて担当者に話を聞いた後、そのベッドを導入しているホテルに泊まり、実際の使い勝手を確認することにしました。
医療用ベッドのノウハウを活用
パラマウントベッドといえば、医療や介護の現場などで使われている業務用ベッドという印象が個人的には強かったのですが、いつからコンシューマー市場に乗り出したのでしょうか。今回、アクティブスリープベッドの開発に関わった技術開発本部係長の窪田伸之助さんとコンシューマーチーム担当課長の小沢卓矢さんに、まずそこから話を聞きました。
窪田伸之助さん(以下、窪田)「コンシューマー領域へは、実は2003年から進出しています。睡眠への関心は高まってきていますが、多くの人々が睡眠改善に対して具体的な対策を取っていないことが当社の調査で明らかになったんです。そこで、これまで70年近くかけて医療現場や介護施設で培ってきた知見と、睡眠への研究を掛け合わせて、新しい概念の製品をお届けしたいということで、一昨年から『アクティブスリープベッド』プロジェクトが立ち上がりました」
小沢卓矢さん(以下、小沢)「当社では、角度をつけて入眠することの有効性、また睡眠に入ったら平らにすることの必要性を、医療現場等で培った理論としてもともと持っていました。それらを一般のお客様にもお届けすべく開発したのがアクティブスリープベッドです。『入眠』モードでは、まず背中が10度上がった状態になり、ユーザーの睡眠を検知した時点で背中がフラットな状態へと移行し、設定した起床時刻が近づくと再び10度まで背中が上がっていき自然な目覚めを促してくれます」
つまり眠るまでは上半身が少し上に上がっていて、眠るとベッドが自動的に水平になり、そして起きる時間になると再び上半身側が上に上がるというわけですね。
パラマウントの研究によると、上半身を少し起こすように角度をつけて横になったほうが眠るまでの時間が「顕著に短い」というデータが出ているそうです。一方、眠った後に水平にするのは、スムーズに寝返りが打てるようにするため。寝返りには滞った体液や血液の流れを変えたり、身体とベッドの間にこもった熱を逃がしたり、涼しいところに移動するなど、快眠に必要な役割があります。ただ、寝返りをするときは一時的に眠りが浅くなるので、寝返りしにくいと目が覚める可能性が高くなるため、水平にして寝返りを打ちやすくしているわけです。
窪田「眠っているユーザーを起こさないように、モーター音や振動を抑える点にも苦労しました。お体が不自由な方をゆっくり動かすための技術は既にあったのですが、それよりもさらに遅くする必要があり、結果的には従来の電動ベッドの約100分の1のスピードにしました」
「足楽」「腰楽」などの角度も用意
角度が変えられるのは睡眠時だけではありません。起きているときも、さまざまなモードを選ぶことができます。
小沢 「『リラックス』モードでは、背中と足の両方が上がり、特に太ももの裏側のハムストリングスが緩められるため、全身の力を抜くことができます。先日、ヨガ雑誌の取材をうけたのですが、体感したときの感想は『ヨガの姿勢と似ていますね』というものでした」
さっそく私もベッドに横になってあれこれ試してみました。「食事」モード、腹部の圧迫感を低減する「呼吸」モード、下半身のムクミなどを防ぐ「足楽」モード、腰の部分を柔らかくできる「腰楽」モードといった体勢のなかで、特に気に入ったのは「読書/TV」モード。上半身が70度まで上がり、まるで高級なソファのような居心地でした。これなら一日中ベッドの上で原稿を書くこともできそうです(笑)。
100万通りの「硬さ」を選べる
アクティブスリープベッドと一緒に開発されたマットレスがアクティブスリープマットレス。計23本のエアセルを備えており、セル1つひとつに空気を送り込むことで、部位ごとの硬さを調整します。
小沢「マットの硬度は、頭から足元までを6カ所に分けていて、それぞれを10段階ずつ調整できます。組み合わせとしては100万通りから選べることになりますね。マットの硬さというのは、お客様の好みがとても分かれるところで、アドバイスを求められる側としても慎重になる部分です。しかし、これならユーザーの体調や好みに合わせて硬さを変えることができますから、買ってから失敗してしまったと感じることがないと思います」
窪田さんによると「マットは硬すぎても、柔らかすぎても寝返りの妨げになってしまうことがある」とのこと。同社では快適な睡眠には寝返りが必要だと考えており、寝返りができる範囲内での硬度の選択肢にこだわったそうです。
宿泊して寝心地を体験
さまざまな工夫が施されていることはわかりましたが、我が家にやってきたクイーンサイズのように、やっぱりベッドは眠ってみないとわかりません。
そこでパラマウントベッドはアクティブスリープベッドを体験できる場所を用意しています。というわけで、「眠りギャラリーTOKYO」から徒歩園内の「レム東京京橋」へ移動。このホテルにアクティブスリープベッドを導入した部屋があるのです。希望者はユニバーサルルームの通常料金1万5000円(1室1名利用時・1泊室料、消費税・宿泊税込み)を支払えば、アクティブスリープベッドを使用して一泊できます。
このアクティブスリープベッドにはアクティブスリープマットレスに加え、「アクティブスリープアナライザー」という装置がセットされています。これは同社が医療現場で蓄積したノウハウを基に、心拍、呼吸、体動などをモニタリングして眠りを採点する機器です。これを使うことで、自分の睡眠をスマートフォンアプリで振り返ることができます。
子どもの頃以来のさわやかな目覚め
部屋に入り、パジャマに着替えて、おやすみなさーい……と言いたいところですが、取材が終わったのは午後9時過ぎ。この日はまだ仕事がたまっていたので、いつもと同じ就寝時間の午前0時ごろまでホテルで仕事をしました。
午前0時すぎ、仕事を終えて、いよいよテスト本番です。アクティブスリープベッドを「入眠」モードにして、起床時刻を8時20分に設定しました。
普段のフラットな状態よりも、角度がある方が私の場合は寝心地が良く、引き込まれるように眠りに落ちました。
午前8時すぎ。スヌーズ機能を選んだので設定時刻の10分前から背もたれが上下移動を開始。優しい動きで、乗り物酔いに弱い私でも気持ち悪くならずに済みました。それにしても何という心地よい目覚め…。子どもの頃、時折訪れた、スッと寝て気がつけば朝になっていた、あの感覚を追体験してしまいました。
肝心の、深夜に行なわれていたであろう、ベッドの背が移行する瞬間についても全く気づきませんでした。そのためフラットな状態での睡眠の記憶がまったくありません。眠る前も上半身は少し起きていたし、起きた後も同じ状態。なんだか狐につままれたような気持ちです(笑)。本当にフラットになったの?
しかし、後日、パラマウントベッドにデータを確認したところ、午前3時45分ごろに背もたれがフラットになっていたという記録が残っていました。
仕事で早起きをしなくてはいけないことも少なくないため、これまでさまざまな目覚め方を試してきました。照明付き目覚ましや爆音の目覚ましなど、いろいろ使ってみたのですが、このアクティブスリープベッドによる目覚めは、これまでのどの目覚ましよりも不快感がなかったです。アクティブスリープアナライザーが示した睡眠スコアも下記のような結果に。
やはり98.0という高得点! 日ごろ、スマートウォッチによる睡眠のログが散々な身としては驚きを禁じ得ません。スマートウォッチと違い、自分自身にセンサーを付けなくても睡眠を計測してくれる点も手軽でいいなと思いました。
価格は高いけれど
実際に試してみて満足したアクティブスリープベッドですが、難点は価格でしょう。ベッド、マットレス、アナライザーをそろえた場合、シングルサイズで43万円、セミダブルだと54万円になります。それぞれ単独で買うこともできますが、ここはやはりすべての機能を使いたいところです。
しかし、シングルサイズを7年間使った場合、一晩当たりの日割りは約168円ですから、本気で眠りを改善するための先行投資としては悪くないかもしれません。本体はWi-Fi対応なので、機能が随時アップデートされていくのはお得感があります。とはいえ、安い買い物ではないのは間違いないので、購入を考えている方は今回のように宿泊して試してみたほうがいいかもしれませんね。
ちなみにアクティブスリープベッドは2人で眠る用のものではないので、夫婦でどうしても同じ寝室にいたい私としては2台購入するしかありません。働こう……!
女優・タレント。家電総合アドバイザー ゴールドグレード(AV情報家電)。元SDN48。特技は茶道、日舞、家電。TOKYO FM「Skyrocket Company」の「家電で快適! 生活向上委員会」コーナー(毎週火曜午後6時ごろ~)にレギュラー出演中。インスタグラムのアカウント名は「natsuko_kaden」
(写真 藤本和史)
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