殺虫剤で蚊が繁栄 予期せぬ副作用、不都合な真実

日経ナショナル ジオグラフィック社

2019/7/19

調査チームはこれらの蚊とイトトンボの幼虫を実験室に持ち帰り、様々な濃度のジメトエートにさらしてみた。すると、農園の蚊は、森の蚊に比べて10倍の濃度のジメトエートに耐えられることがわかった。一方で、農園のイトトンボの幼虫にはそうした耐性はなかった。

耐性を進化させた蚊は、小さな楽園を見つけたと言える。天敵であるイトトンボがいない環境で、幼虫がのびのびと育つことができるのだ。

蚊の抑制は世界的に難しくなっている

米国サザンミシシッピ大学の昆虫生態学者ドン・イー氏に言わせれば、この研究結果はさらに大きな図式の一部だということになる。それは、蚊の抑制が世界的に困難になっているという現実だ。すでに世界各地で、多くの一般的な殺虫剤に対して蚊が耐性を持つようになっている。特に、危険な病気を媒介する種については懸念が大きい。なお、氏は今回の研究に関わっていない。

耐性の進化は殺虫剤がもたらした不都合な結果の1つに過ぎない、とイー氏は言う。他にも「競合解放」と呼ばれる現象がある。これは、殺虫剤を耐え抜いた数少ない生き残りが、たった1世代で個体数を回復させるというものだ。

「(蚊の)幼虫の密度が下がるので、(残った)幼虫たちは資源をたっぷり利用でき、より大きく成長するのです」とイー氏は説明する。大きな幼虫は、その後より多くの卵を産み、次の世代を繁栄させることになる。

耐性を進化させた蚊が、耐性を進化させられなかった天敵を逃れるという、今回ハミル氏らによって明らかにされた現象は、蚊が媒介する病気の阻止をより困難にする。ハミル氏によれば、Wyeomyia属の蚊が、近年中南米で蔓延したデング熱のような致死性の病気のウイルスを媒介するかどうかは分かっていない。

しかし、イー氏が指摘するように、そうした病気を媒介する他の種類の蚊にもやはり、イトトンボのような天敵がいる。殺虫剤がそれらの蚊に逆説的な繁栄をもたらしているのかについては、今後の研究が待たれる。

(文 Jake Buehler、訳 桜木敬子、日経ナショナル ジオグラフィック社)

[ナショナル ジオグラフィック ニュース 2019年6月4日付]

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