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つらい記憶に名前をつけよ ストレス和らぐ心の整理法

ストレス解消のルール(10)

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NIKKEI STYLE

日経Gooday(グッデイ)

前回記事「適度なストレスは健康にいい 休息とのバランスがカギ」で、「ストレスの正体」は必ずしも「悪」ではない、という話を紹介した。適度な緊張感は、ある意味「生きる幸せを感じさせるもの」でもあるのだ。今回は、具体的に「ストレスと上手に付き合うためのヒント」を健康ジャーナリストの結城未来が日本大学医学部精神医学系・内山真主任教授と考えた。

◇  ◇  ◇

まず、自分の抱えているストレスがどういうものなのかをチェックしよう。

A:具体的に決断を下さなければならず、葛藤して苦しんでいないだろうか?

⇒もしそうなら、解決のヒントはこのページに

B:嫌なことがあって、そのストレスを受け止められずに苦しんでいないだろうか?

⇒もしそうなら、解決のヒントは2ページ目へ

【A:決断を前に葛藤して苦しんでいるなら……】

――内山教授「二者択一の状況で決断を下す際に、もう一つの可能性を諦めきれないことも多いのではないかと思います。こういう葛藤状況が大きなストレスをもたらします」

例えば、どういう場面だろうか?

――内山教授「大学の授業では学生に考えてもらうため、身近な話を例に出しています。試験の日に好きな洋楽のミュージシャンの来日コンサートがぶつかってしまったとしましょう。すると、『どうしても聴きに行きたい、でも成績は落としたくない』という葛藤状況が生まれます」

生きる上で、こういった選択をしなければならない場面はありがちだ。でも結局、体は一つしかないのだから、どちらかを選択するしか手立てはないように思う。

――内山教授「そうですね。ただ、その際に『気持ちを整理する』作業がとても大切なのです。まず、自分にとっての重要度をランク付けします。『コンサートが何よりも大切だから、試験の結果はどうなってもよい』というならコンサートに行くし、『成績や進級には代えられない』のであれば、コンサートを諦める。こうした白か黒かの明確な選択が自然にできれば簡単です。

なるほど。「仕方ないからこうなった」ではなく、「決断の経緯や理由」を明らかにすることは大切らしい。

――内山教授「この『気持ちの整理』がきちんとできていないと、私たちは諦めたことに関してネガティブな気持ちをひきずり、後悔してしまうものです。試験が意外に簡単だったら、『コンサートに行ったほうがよかったかなぁ』と思うかもしれませんし、成績が悪かったら、『やっぱり遊びに行かずに勉強しておけばよかった』と後悔するわけです」

……確かに私も、後悔の連続だ。

――内山教授「白黒ハッキリつけるというよりは、灰色の決断、それも『あまり暗くない灰色の決断』を見つけることができたら、気持ちも軽くなると思います。

例えばこの場合、『勉強不足だから遊びに行かない方が安全だ』と感じるなら、『コンサートには次の来日の際に行くことにしよう』と、楽しみを残しておくのも一つのやり方です。また、もう少しアクティブに、『来日は当分なさそうだから、別の機会に3日間休んで海外に行って本場でコンサートを聴こう』と、切符の安い時期のコンサートの日程を調べる。これなら、『現状から逃げて妥協した』ことにはならないので、気持ちもスッキリしてきます。しかも、そうやって前向きに動いているうちに、『そこまでしなくてもよいかな』と考えるようになるかもしれません。つまり、少しずつ具体的な行動を起こすうちに、思いもよらない心の整理ができたりもします」

なるほど。どうしても決断せざるを得ないのなら、心残りになりそうな事柄に対して希望を残しておけば前向きに決断できそうだし、葛藤によるストレスも生じにくい。これは、ビジネスでも大いに生かせそうだ。

――内山教授「そうですね。ビジネスでも同様なことは起こりがちです。その際には少し立ち止まって、心の中を整理する時間をとってみたらよいと思います。白黒をつけなければいけない葛藤状態では、最終的に帰結する行動は2つに1つです。しかし、『仕方なく一つの選択肢を選ばざるを得なかった』と感じるのと、『気持ちを整理した上で決断した』と感じるのとでは、ずいぶん違うと思います。その上、『チャンスに対して前向きに考える戦略』を立てられるようになると、ピンチのたびに成長していくことにもつながります」

「ピンチ」を単なる苦境とせず、むしろ自己成長の良い機会だと考えられれば、ピンチに直面した際の苦しいストレスも軽減できそうだ。

このように、「葛藤する」ことによるストレスもあれば、起こったことに対して気持ちの整理がつかずに苦しむストレスもあるだろう。

【B:嫌なことがあって、そのストレスで苦しんでいるなら……】

――内山教授「何か嫌なことがあって、それについてストレスを抱えている場合、『誰かに言葉で語ること』ができれば、モヤモヤした苦しい気持ちから逃れることができます。1人で思い悩むのはつらいものです」

そういえば、私もつらいことがあると、誰かに話を聞いてもらうことで少し楽になることが多い。

――内山教授「そうですね。これは、男性より女性の方が上手に利用しているストレス対処戦略です」

とはいえ、高ぶった感情を誰かにぶつけて発散しているように思えることもある。

――内山教授「もちろん、『話を聞いてもらって理解される』という面もあります。これに加えて重要なのが、話す相手に分かってもらえるように話を組み立てていく中で、少しずつ『嫌な気持ちとの距離がとれる』ことなのです」

「言葉にする」ことには、大切な意味があるようだ。

――内山教授「例えば学生が、同じクラスの付き合っていた彼女と別れてしまったとします。同級生から『お前、別れたんだってな』と言われると、初めのうちは別れたことを言葉にできないので、『そんなに単純なことじゃないよ』などと反論して、そのことに触れるのを避けるのが普通です。うまくいかなくなった時の何とも言えないつらい気持ちが頭の中で再現されてしまうのが嫌だからです。記憶の中に嫌な体験が生々しいまま残ってしまっているのでしょう」

「言葉で表せない」=「心の整理がついていない」=「つらい体験が生々しく記憶にとどまっている」=「何かにつけてその時の嫌な気持ちが思い出されてしまう」ということらしい。

――内山教授「私たちは頭の中で、出来事についての複雑な体験や気持ちを記憶の箱の中に入れて整理していると考えたらよいでしょうか。整理には少し時間がかかります。まだ整理ができていない段階だと、『(彼女と別れたことは)そんなに単純なことじゃないよ』という返答になってしまうのです」

嫌な体験をしたら「忘れることが大切」「記憶から消し去ることが大切」だと思いがちだ。実際、つらい体験を思い出すような会話になったときに、「あぁ、あのことはもう忘れたから」、つまり記憶から消したと言い放ちがちだ。それに対して、「記憶の箱に入れる」ということは、「消すのではなく残しておく」こと、つまり「何かあるたびに思い出す」ことにならないのだろうか。

――内山教授「『記憶を消す』というよりも、『思い出しても平気なように記憶を整理する』と考えた方がよいでしょう。記憶の箱に入れただけの状態では、ちょっと思い出すたびに記憶の箱の中身、つまり体験や気持ちを見てしまうことになります。中を見てしまうと、実際に体験したつらい気持ちまで再現されてしまう。『記憶の箱を整理する』というのは、外から見ただけで箱に入っている出来事が分かるように、記憶の箱にラベルを貼って短いタイトルを書いておく作業です」

記憶の箱にラベルを貼るのはなぜ有効?

「タイトル」というのは、「出来事を象徴する言葉」ということだろうか?

――内山教授「そうです。自分史の単なる一つの出来事にしてしまうには、ピッタリくるタイトルが必要です。『お互い気持ちが子どもだったせいで彼女と別れた』というように出来事の箱にタイトルをつけてしまえば、いちいち箱を開けて中身を確認する必要がありません。中身を見なければ、その時のつらい気持ちもよみがえってきません。過去の一つの出来事として思い出すことができます。

納得のいくタイトルをつけることは、『言葉で整理する』ことになります。これが、心の整理につながるのです。さまざまな出来事や体験にタイトルをつけて体験や気持ちを整理してしまうことは、言葉を介した心の治療、つまり精神療法の重要なポイントです」

逆に、楽しい思い出なら、「より鮮明に思い出して、明日への活力にしたい」と感じている人も少なくないだろう。

――内山教授「確かに、嫌なことは思い出したくなくても、『うれしかった時の感動』は思い出したくなるものです。例えば、学生時代に大きな大会で優勝した経験があり、その時の感動を当時の仲間たちと共有したいと思ったとしましょう。皆で集まって『あの時優勝してよかったな』と話すだけでは、うれしかった気持ちや感動はなかなかよみがえってきません。この出来事の記憶の箱には『優勝した素晴らしい体験』というタイトルがついているのかもしれませんが、こうした事実だけではうれしい気持ちまではよみがえりません。そういう時に役立つのが、映像や写真です。当時撮影した映像を仲間で見れば、少しずつ箱のフタが開いて、一時的にでもその時の感動をみんなで分かち合えることにつなげられると思います」

聞き手選びは重要

思い出したい記憶、思い出したくない記憶、どちらも、記憶の箱にタイトルをつけて整理できていれば、気持ちのコントロールをしやすいようだ。過剰なストレスを軽減するにはとても大切な作業とも言える。

では、記憶の整理に大切な「言葉にする」ためには、誰に話をすればよいのだろうか? 退社後に同僚と飲みながらグチをこぼすことが、ストレス発散になっているビジネスマンもいることだろう。

――内山教授「仕事の悩みやストレスを解消するために、同じことに関わっている同僚に話すことは一見、良いことに思えるかもしれません。でも、状況が分かっていれば、必ず分かり合えるものだと思いますか?」

同じ環境にいても、感じ方や考え方は人それぞれだ。いくら普段「気が合う」と思っていた同僚でも、本音は違うかもしれない。

――内山教授「その通りです。しかも、自分の話をしたら相手の話も聞く必要が出てきます。このような状況で、自分の気持ちを整理するのは難しいものです。場合によっては話をしたことで、感じ方の違いや誤解が生じ、人間関係に悪影響が出たり事態が悪化する危険があります」

では、家族にはどうだろう? 帰宅後に家でグチをこぼしたくなることもあるだろう。

――内山教授「家族でも、その出来事の内容や相手の考え方次第だと思います。話をする目的は、あくまでも自分の体験したことや感じた気持ちを言葉にして整理をしていくことです。あまり意見をしない第三者に話すほうが、かえって苦労が少ないと思います」

「第三者」というのは、専門医などだろうか? ただ、気軽に受診することに抵抗を感じる人も少なくないだろう。

――内山教授「ストレスになる場所が仕事なら、仕事から離れた趣味の場などで、あたかも物語を話すようにさらっと話すのがよいかもしれません。聞き手には、話の内容に興味や関心を示すことなく、『ただ聞いてくれる人』を選ぶのがよいと思います。目的は、話をしながら自分の気持ちを整理することなのですから、聞き手選びは重要です」

話したい相手がいなければ、日記でいい

利害関係のなさそうな相手を見つけられない場合は、どうすればよいだろうか?

――内山教授「『日記』はいかがでしょう。『文字で言葉にする』のも一つのやり方です。文字にしろ、会話にしろ、モヤモヤした気持ちを言葉にすれば、記憶の箱にラベルを貼れます。言葉を使って記憶の整理を進めていけば、複雑な状況でのとてもつらい体験がいつの間にか歴史の中の出来事の一つになり、自分史の中に組み入れられていくのです。劇作家や小説家の中には、こうした自らの体験を言葉を使って整理する過程で素晴らしい作品を創作した人も多いです」

「なんとなく嫌な気分」や「つらい気持ち」は、うるさいハエのように何をしていても自分の周りを飛び回り、歩きだそうとする自分の行く先に暗闇をつくる。そんなストレスと上手に付き合うために大切な作業が、「言葉」という人間特有のツールを使った「体験と記憶の整理」だ。まずは心を整理することで「自分自身を納得させること」が、前向きに歩きだすための大きな一歩につながるようだ。

【ストレスと上手に付き合うためのルール
(1)具体的に葛藤しているストレスなら、決断の背景を明らかにすべし
(2)モヤモヤしたつらい感情は、「言葉」として客観的に表現できるようにすべし
(3)話をするなら、ただ聞いてもらうだけ。意見を求めてはいけない
(4)利害関係の全くない人を選んで話すべし
(5)日記などで言葉にすることも有効と心得るべし
内山真さん
日本大学医学部精神医学系主任教授。1954年生まれ。東北大学医学部卒業。ドイツ留学、国立精神・神経センター(現・国立精神・神経医療研究センター)精神保健研究所精神生理部部長などを経て、2006年より現職。日本睡眠学会理事長、日本臨床神経生理学会理事、日本時間生物学会理事など。『睡眠のはなし』(中公新書)、『睡眠学の権威が解き明かす 眠りの新常識』(KADOKAWA)など著書多数。NHK「きょうの健康」をはじめ、メディアへの出演も多い。
結城未来
エッセイスト・フリーアナウンサー。テレビ番組の司会やリポーターとして活躍。一方でインテリアコーディネーター、照明コンサルタント、色彩コーディネーターなどの資格を生かし、灯りナビゲーターや健康ジャーナリストとして講演会や執筆活動を実施している。

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