ゆっくりすることができない
著述家、湯山玲子さん
常に動いていないと気がすまず、ゆっくりできません。横でごろんとしている夫からは「落ち着いて」と言われます。迷惑をかけないよう座りますが、何かすることを探している自分に疲れます。瞑想(めいそう)について本で読んだりヨガを習ったりしても続きません。ぼーっとする方法はないですか。(兵庫県・50代・女性)
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疲れたが口癖で、何もせずだらだら毎日を過ごしている人の方が多いなかで、「常に動いていなければ気がすまない」という性質は、悩むどころか誇りにしていいと思います。生きるエネルギーというのは、行動することでどんどん強くなっていくので、「動く気がしない」という状態よりも、断然いい。
ただ、ちょっと気になるのが、相談者氏は常に忙しくしていることで、一種の思考停止をもくろんでいるのではないか? という点。ヒマな時間に頭をよぎるのは、ネガティブだったり、人間が生きている間に感じてしまう本質的な問題だったりするので、そういう思考に向き合うことを無意識に避けているような気もするのです。
たとえば仕事人間だった男性が定年退職してヒマになったとたん、憂鬱な気分になったり途方に暮れたりするのも、仕事で思考停止して先送りしていた様々なこと、特に自分に関する問題が浮上してくるから。そういう意味では、忙しさ=思考停止も生きるテクニックですが、ちゃんと考えて取り組まなければならない問題を「無いこと」にしてしまう残念さがあります。
ではぼーっとしながらも、ネガティブな自分探しに陥らずに思考するにはどうするか。私がオススメするのは、クラシック音楽ですね。日本語のポップスのように言葉の意味を追ってしまうのではなくて、立体的で抽象的な音を耳で追っていると、その一方で頭の中にいろんな考えが浮かんで、通り過ぎていくのです。いわば、音を補助線のようにして、思考のゲームに入っていく感じですね。
釣りもいいですよ。じっと、魚の当たりが来るまで待つ時間、頭の中にいろいろな考えが浮かんで来て、それを楽しむことができる。ちなみに、ランニングにハマる人は運動する快感というよりも、走っている間に頭の中に浮かんでくる考えや精神状態が面白いから、だそうです。
「常に動いていなければ気がすまない」という行動を、実のあるインプットやアウトプットの方に使う手もあります。読書、語学や楽器の習得、研究に園芸、味噌造り、編み物など。そういう忙しさで人生の時間を面白く埋めていくのはアリだと思いますよ。
[NIKKEIプラス1 2019年7月13日付]
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