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年金の本質は「保険」 長寿リスクに備える 老後のお金 100年の計(2)

2019/7/9

老後資金に関する金融庁の報告書に対して「年金をもらえないなら保険料を払わない」という極端な反発も聞かれた。しかし実際は、払った保険料よりは多くの年金を受け取れるというのが年金財政の見通しだ。

会社員と専業主婦のモデル世帯では、2015年時点で40歳なら老後、平均余命まで生きた場合に受け取る年金の総額(定額の国民年金と収入に応じて変わる厚生年金の合計)は、払った金額の2.4倍になる。

専業主婦は保険料を払わずに国民年金をもらえるので、モデル世帯は計算上有利だ。そこで夫の分だけを独自試算すると、1.8倍だった。国民年金だけの人も1.5倍もらえる。

現役世代が減り受給世代が増えているため、今の高齢世代に比べると倍率は小さい。しかし高齢世代の年金が多いことで、今の若い世代は親を扶養する負担が少ない面がある。負担と給付の関係は総合的に判断する視点も大切だ。

なぜ払った保険料を給付が上回るのか。国民年金の財源の半分は税金であり、厚生年金保険料の半分は会社負担だからだ。

給付は老後の年金だけではない。病気やけがで働けなくなれば障害年金が、大黒柱が亡くなれば遺族年金がもらえる。老後資金に詳しい立正大学の林康史教授は「年金はお得な仕組み。フル活用したい」と話す。

ただ年金を損得だけで考えるのは間違いだ。年金の本質は保険料を払って「長生き」「障害」「大黒柱の死亡」という人生のリスクに備える「保険」。法律の正式名称も厚生年金保険法だ。例えば火事が起きないからといって、火災保険料が損だと思う人は少ない。

本質は保険と理解すると、様々な判断基準が変わる。例えば繰り下げ受給。本来の受給時期である65歳から5年遅らせれば金額は42%増える。もらわない5年分を取り戻す「損益分岐年齢」は81歳だ。もっとも年金が増えると税・社会保険料も増えるため、手取りの増え方はやや小さくなる。手取りベースの損益分岐年齢は84~87歳前後に延びることも多い。損得で考えると微妙な面もある。

しかし「年金は保険」という本質に立ち戻ると「長生きリスクに備えて繰り下げで金額を増やしておく選択の重要性が増す」(林教授)。繰り下げで年金が入らない時期を乗り切るためにも堅実な資産運用での自助努力は大切だ。

今後も少子高齢化は進む。年金財政にはかなり織り込まれてはいるが、対策は万全ではなく、財政が予想より悪化すれば冒頭の倍率も下がりかねない。現役世代の減少に応じて年金額を調整する「マクロ経済スライド」をより強化するなど一層の改革が急務だ。

(編集委員 田村正之)

[日本経済新聞朝刊2019年7月6日付]

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