似合うサイズに自分で一手間 大切な3つの組み合わせ
第3話
ドラマスタイリスト、西ゆり子さんはドラマを「日常を映し出すもの」と位置づけ、「ちょっとオシャレだけど、普通にこういう人っているよね」と思えるように仕上げている。1話、2話に続く第3話では、「ちょっとオシャレだよね」と周囲に印象付けるコツ、体形別の着こなしをアドバイスしてもらう。「顔が大きくて体とのバランスが悪かったり、ヒップが大きかったり、悩みを抱えている」女優さんを美しく変身させるティップスは、私たちにも応用できるはずだ。
一手間で「ちょっとオシャレ」に
――12年ぶりに連続ドラマとして放映される金曜ナイトドラマ「時効警察はじめました」(テレビ朝日系)では、全出演者のスタイリングを担当しました。出演者が「ちょっとオシャレ」と思えるようにどう仕上げましたか。
「一番気を使うのが似合うサイズ感ですね。モデルさんでも女優さんでも、既製服をそのまま着せると、どこか『借りてきた洋服』になってしまいます。雑誌なら、サイズが合わなければ後ろ身ごろをピンで留めるなどすればいいのですが、ドラマは360度映る前提ですから、全て縫わなければいけません。スカート丈ひとつとっても、一番ステキに見える丈になるよう、ちょっとだけ裾上げをします。一手間のアレンジが大事です」
――女性の就業率が高まっていることを映しているのでしょうか。ドラマで働く女性が登場する機会が増えたように思えます。
「スーツをスタイリングすることは多くなりました。でも、実はスーツこそ、一番の難問です。肩のラインや胸元のVゾーン、パンツやスカートといったボトムスの丈など、全体のバランスをとるのが最も難しいんですよ」
――意外です。バランスを上手に取るにはどうしたらいいのでしょうか。
「基本的なポイントを3つ、押さえてください。まず、ボトムスに応じてジャケットの丈の長さを決める。パンツが細めやスキニーだったり、くるぶしまでのクロップド丈だったりするなら、ジャケットは長めに。タイトなスカートで膝前後の丈の場合も同じです。ちょっと太めのパンツや丈が長めのスカートには、ショート丈のジャケットを合わせましょう」
スーツは1シーズン3セットを着回す
「2つ目は1シーズンで3セットのスーツを着回すことです。自分に似合うジャケットとボトムスを、1シーズンで上下3セットをメドに用意してみてください。着回すことで日々の装いに変化が生まれ、『何か、オシャレだね』といわれる人になることができるでしょう」
「最後は首元のあき加減の調整。スッキリ見えるようにと、首元があいているインナーを好む人も多いと思いますが、知的に仕事ができる女性に見せるには、断然、首元が詰まっている方がいい。きちんとした格好をしたいと思ったら、ジャケットの下はワイシャツを着て、ボタンを上まで留めてみましょう。Tシャツでも襟が詰まった型なら知的に見えます。首元を大きく開ける衣装は女性らしさが強調され、男性に対してこびる印象を与えてしまいかねませんので注意を。自分はどう見られたいか、他人はどう見ているか――といったことを意識してください」
――好みの服を着ていればいい、というわけではないのですね。
「特に管理職は。たまにテレビ局内で、ヒラヒラした袖の華やかな服装で、職場で浮いてしまっている女性を見かけます。洋服には足し算と引き算があって、引き算をしながら、少し華やかさをプラスしていくと嫌みになりません。ゴールドのネックレスにブレスレットやスカーフと盛りすぎてしまうのは、ちょっと。自分のためではなく、他の人のために華やかさを演出するぐらいの気持ちでいましょう」
――ただ、個性も必要になります。
「自分のためのスタイリングを『エッジ』と私は呼んでいます。個性を演出して、自分自身をアピールできるアイテムです。『ちょっと変』という違和感にも通じるかもしれません。例えば、スーツの裏地を華やかなスカーフ柄にします。ジャケットを脱いだ時だけに分かる自己満足のファッションで、魔法の粉を振りかけたようにテンションが上がるでしょう。ヒョウ柄が好きならバッグの中にヒョウ柄の財布や小物を入れておくだけでも、気分が違ってきます」
「華」「エッジ」「コンサバ」のバランスが大事
――「どこかが変な感じ」もやりすぎると「すごく変な感じ」になりそうです。
「エッジをきかせるところは1カ所だけ。何でも派手にすればいい、ということではありません。スカーフやアクセサリーはエッジをきかせるアイテムとして取り入れやすいですよ。華やかさとエッジのほか、スタイリングでもう1つ大事な要素があります。伝統美、『コンサバティブ』(コンサバ)です。長い歴史の中で残ってきたテーラードスーツなどですね。3つの要素を融合させて、バランスをとる。華やかさだけ、エッジだけ、といったスタイリングはあり得ません」
「肌に触れる衣類は天然繊維の方がいいですね。『できる女性』というのは、そういう自分へのトータルな気遣いができることも大事ではないでしょうか」
――最近はオーバーサイズに見える洋服が流行しています。
「トップスがビッグシルエットの場合、ボトムスはスキニーパンツなど、細身のものとあわせるとバランスがいい。気をつけなくてはいけないのは、シルエットにゆとりのあるストンとしたワンピースです。人によっては妊婦服のように見えることがあります」
――体形に応じた着こなし術って、ありますか。
「痩せている人はボリューム感のあるワンピースを着ても大丈夫。ピタッとしたアイテムだと逆にバランスが悪くなります。ふくよかな人はピタッとでもビッグシルエットでもなく、服の生地が『つかず離れず』のサイズ感が大事になります」
「ボリュームがあるボトムスなら、胸元辺りがピタッとするようにしておけば、下半身が太っている感じにならずに済みます。既製のワンピースをそのまま着てポッチャリしているなと思ったら、ウエストの位置を少し上げたり、背中部分をちょっとつまんでみたりしてください」
1950年生まれ。雑誌や広告のスタイリングを手がけた後にテレビに進出。ドラマやCM、映画での洞察力あふれるスタイリングは高い評価を得ており、指名する女優も多い。最近担当した出演者には「セカンドバージン」で主演した鈴木京香さんや、「ファースト・クラス」の沢尻エリカさんなどがいる。最近はフジテレビ系「後妻業」や日本テレビ系「家売るオンナの逆襲」を手掛けた。2019年10月にはテレビ朝日系「時効警察はじめました」が放送予定。
(編集委員 木村恭子)
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