ドラマスタイリストの極意 全身のバランスを計算する第1話

「服が自分のものになっている」ことと「なっていない」こと。私たちにもヒントになりそうだ。2つを分ける基準とは何なのか? 返ってきた答えは「全体のバランス」。「バランスが悪いとパンツスタイルは足が短く見えてしまう。タイトスカートだとすごくヒップが大きく見える。でも、スカートをマーメイドラインにするだけで、キレイにみえることがある」。一人ひとり体形は異なる。足元の靴を含めて全身のバランスを計算し、コーディネートする。出演者が控室のドアを開けた時、周囲が歓声を上げる瞬間こそ「真剣勝負で勝った」と実感できるのだという。

■バラエティー番組で派手な衣装、問い合わせ相次ぐ

西さんが「スタイリスト」という職業を意識したのは、1970年に創刊した雑誌「an・an(アンアン)」の特集記事だった。当時はグラフィックデザインの会社に勤めていた。「フランス語のスチリストとして紹介されていた仕事は、洋服やアクセサリーを集めてコーディネートするという。『これが私の仕事だ!』と。洋服は縫えないし作れないけど、大好きだった」

雑誌のスタイリストとしてキャリアをスタートした

キャリアのスタートは88年創刊の雑誌「Ray」だ。「編集長が私のスタイリングを気に入り、そこからいろいろな雑誌につながっていった」。その後、仕事で一緒だったカメラマンに誘われ、テレビの世界に足を踏み入れる。最初の仕事場はドラマだった。ドラマは連続性が大事になる。「役者さんのかけている眼鏡について、あるシーンは赤い縁がいいと思い、別のシーンでは黒がふさわしいと感じても、変えることは難しい。気分や感覚を大事にする自分には向いていない」と当時は感じたと話す。

90年代に入ると、ドラマ現場で一緒だった監督やディレクターがバラエティー番組に異動したのに伴い、西さんも活躍の場を移した。「番組独自のスタイリストとして、ほとんどの番組出演者の衣装を担当した。テレビ局に衣装部はあるが、スタイリストとして外部から参加したのは、おそらく私が最初だろう」とほほ笑む。86年に男女雇用機会均等法が施行され、時代は「強い女性」や「個性」を求めていた。そこで「とにかく派手」に演出。お笑いタレントの山田邦子さんや、フジテレビ系「なるほど!ザ・ワールド」で司会をつとめた楠田枝里子さんの衣装を手掛けたといえば、思い出す人は多いだろう。「あの衣装はどこから持ってきているのか」と問い合わせが相次いだそうだ。

撮影現場でもチェックを怠らない

西さんが再びドラマの仕事に戻ったのは、97年に木村拓哉さんが主演した「ギフト」(フジテレビ系)だった。プロデューサーから声がかかったものの、「テレビをほとんど見ないので、木村さんがどれほど人気があるのか知らなかった」。ドラマでは出演した主な女優のスタイリングをすべて担当。台本を読み込み、ファッションから役柄をつくり上げた。どの人も個性的で生き生きしていると高く評価されると同時に、西さん自身もドラマでのスタイリングにおもしろさを感じ始めたという。

ドラマスタイリストの草分けであり、第一人者。そんな西さんにさらに聞いてみたい。出演者が控室のドアを開けた瞬間、周囲から歓声が上がるように、自宅を一歩出たとたんに「おー」と言われるには、何が必要なのだろうか。次回は仕事のできる女性がファッションでも認めてもらうためのポイントをアドバイスしてもらう。

西ゆり子
1950年生まれ。雑誌や広告のスタイリングを手がけた後にテレビに進出。ドラマやCM、映画での洞察力あふれるスタイリングは高い評価を得ており、指名する女優も多い。最近担当した出演者には「セカンドバージン」で主演した鈴木京香さんや、「ファースト・クラス」の沢尻エリカさんなどがいる。最近はフジテレビ系「後妻業」や日本テレビ系「家売るオンナの逆襲」を手掛けた。2019年10月にはテレビ朝日系「時効警察はじめました」が放送予定。

(編集委員 木村恭子)