米国に学ぶ財政の理念 赤字容認論は危うい(加藤出)東短リサーチ社長チーフエコノミスト

ただしサマーズ氏は単なる財政のばらまきをもっとやれ、と主張しているのではない。穴を掘って、それをまた埋めるような無意味な財政支出は直ちにやめるべきであり、教育、貧困対策、医療保険の拡充、気候変動問題など将来につながる「本当に価値のあるもの」のために財政資金を投じるべきだという。しかもその際には、中長期的なコストと効果のバランスを評価する「ダイナミック・スコアリング」などの手法を導入すべきと述べている。

米で意識される「ワイズ・スペンディング」

財政支出を拡大する際は「ワイズ・スペンディング」(賢い支出)でなければならない、という考え方は米国でよく聞かれる。日本における議論はその点がかなり緩い。「国債の増発は子供や孫の世代への借金の付け回しだ」という意識が米国と異なって日本ではなぜか弱いからだろう。

財政赤字を拡大する政策がワイズ・スペンディングとみなせるか否かを評価する中立的な立場の独立財政機関が日本には存在しないことも大きな問題といえる。

米国の独立財政機関である議会予算局(CBO)は、ホワイトハウス、共和党、民主党から中立的な立場で、今後30年間の経済成長率、税収、社会保障を含む歳出、政府債務残高の予測を公表している。グラフにあるように今後の経済成長の予想をホワイトハウスはかなり高めに推計しているが、CBOは全く忖度(そんたく)せずに独自の予想を作成している。財政に関連する政策が国会で議題に上ると、CBOは長期的なコストとベネフィットをすぐに試算する。それが議論の叩き台になっている。

日本版CBOの設置を

独立財政機関の設置は今や先進国のスタンダードとなっている。OECD(経済協力開発機構)36カ国のうち28カ国が持っている。G7で設置していないのは日本だけだ。選挙が近づくと将来の年金制度に関する率直な議論が封印されてしまうのも独立財政機関が存在しないからともいえるだろう。

米国の生産年齢人口は今後も着実に増加していくが、日本は急速に減少していくとみられる。納税者が将来増えていく米国と、正反対の日本では、現代の政府の借金を将来世代に付け回しする政策の維持可能性は全く異なってくる。政府・日銀はこれまでのところMMTとは一線を画す立場を示しているが、日銀が国債の金利をマイナスに押し下げる政策を続けていると財政赤字に対する感覚の麻痺(まひ)が広がりやすくなる。このような状況において、独立財政機関による中立的な推計も存在しない日本でMMTを政策に導入することは非常に危険と思われる。

加藤出
1965年生まれ。88年横浜国立大学経済学部卒、同年4月東京短資入社。短期市場のブローカーとエコノミストを兼務後、2002年2月に東短リサーチ取締役、13年2月より現職。マーケットの現場の視点から日銀、FRB、ECB、中国人民銀行などの金融政策を分析する。著書に「日銀、『出口』なし!」(朝日新聞出版、14年)など。
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