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カリスマの直言

米国に学ぶ財政の理念 赤字容認論は危うい(加藤出) 東短リサーチ社長チーフエコノミスト

2019/7/8

サンダース上院議員(中)は米民主党の大統領選候補者討論会で財政赤字容認論と明確に距離をとる主張をしていた(6月、米マイアミ)=ロイター
「財政赤字は将来世代への借金とつけ回しという意識から、米国の議会予算局のように独立した機関が財政支出を評価するべきだ」

自国通貨建ての国債を発行できる国は、インフレ率が高進するまでは政府債務の増加を気にすることなく財政赤字を増加できると主張するMMT(現代貨幣理論)が日本で大きな話題となっている。提唱者であるステファニー・ケルトン・ニューヨーク州立大学教授が「日本政府と日銀がMMT(の正しさ)を実証してきた」と主張しているからだ。日銀の黒田東彦総裁や麻生太郎財務相が国会や会見で見解を問われる場面も増えている。

筆者はこの原稿を米国出張中の2019年7月1週目に書いている。米国に来てあらためて感じたが、この米国発の経済理論に対する一般世論の関心は日本よりも明らかに低い。例えば米紙ニューヨーク・タイムズに5年間でMMTという言葉が載ったのは2回しかない。その2回ともが経済学者ポール・クルーグマン氏が連載コラムで同理論を批判したものであり、記事としての取り上げは一度もない。

■米世論、MMTに関心低く

6月最終週に民主党の大統領選候補者が2日間にわたって討論会を開いた。その中でMMTという言葉は一度も登場しなかった。それに関して大手メディアが疑問を呈することもなかった。米国でMMTは一般的には注目を浴びる存在ではないためである。

ステファニー教授は民主社会主義を標榜する左派のバーニー・サンダース上院議員の経済アドバイザーといわれている。そのためサンダース氏はMMTを支持しているかのような印象を日本では受けるが、全くそうではない。同討論会でサンダース氏はMMTと明確に距離をとる主張をしていた。彼が提案している健康保険の拡充策や学生ローン救済策は、富裕層を中心とする所得税率引き上げ、ウォール街税の導入(株式、債券、デリバティブといった金融取引への新たな課税)などによる税収増によって実現すると説明した。

司会者から「中流層への所得税率を引き上げるつもりか」と問われたサンダース氏は、回答を避けたがっていたが、結局それを認めた。MMTを採用して政府債務を膨張させれば増税を当面回避できるはずだが、彼は選択していない。なぜならサンダース氏は20年の選挙で大統領の椅子を本気で狙っているからである。だとすれば「選挙狙いで調子いいこと言ってるな」と有権者に思われるのはまずいことになる。

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