尾原和啓 自己評価下げる「呪いの言葉」から解放を

日経doors

自分の価値を相対化させよう

なぜ親からの影響が、子どもに強く出てしまうのか? それは成長期における子どもの環境で、最も大きな存在であるからです。しかし、大人になれば、自分が過ごす環境は自分で選べます。つまり、自分に与える影響を、選べる、ということでもあるのです。

例えば僕は48歳なので、仕事をするときは、年下の方と組むことも多いです。すると、頼りにされる機会も増え、「尾原さんすごい」と言っていただく機会も増えます。しかし、いざ取締役クラスの方々と仕事をするとなると、環境は一変し、目上の方々から「尾原、まだまだだな」と叱咤(しった)激励されることもしばしばです。僕は、あえて自分の価値が固定化しないよう、関わる方の年齢や性別、業界や国などが偏らないようにしています。評価してくれる相手を分散させることで、自分に与える影響が偏りにくくなるからです。

先述した知人女性は、実家を出て1人暮らしを始め、当初はSE(システムエンジニア)として働いていました。ある時、職場でラフ絵を依頼されたところ、「絵がうまい!」と褒められるようになり、だんだんと自分でも絵を描き始めます。そして、休日になると書きためた絵をイラスト投稿サイトのpixivや、SNSなどで投稿するようになり、少しずつ、絵の仕事を増やしていっているそうです。

彼女の場合、「大したことない」と思い込んでいた自分の絵を、職場やインターネット上など、あらゆる場所で解放していくことによって再評価され、どんどん自信をつけていくことで、アンリーシュしていったのです。

ちょっとした「外し時間」を大切に

もし、思い当たることがあるのなら、ぜひ今いる環境を出て、自分を相対化してみることから始めてみてはいかがでしょうか。例えばTwitterやInstagram上には、趣味のコミュニティーがいくらでもあります。週末、遠方へ旅してみるのもオススメです。住んでいる場所と違う空気、土地に触れた途端、それまで会社などで縛られていた自分の価値を、相対的に見つめるきっかけにもなるでしょう。たまには、これまで行ったことのないお店で、1人でランチしてみるだけでも刺激になります。まずは日常の中からちょっとした「外し時間」をつくってみると、「今の環境だけが自分のすべてじゃない」と思えるはずです。

誰もが、多かれ少なかれ呪いを受けて生きてきました。だからこそ、誰を責めることもなく、自立してアンリーシュすることこそ、大人らしい選択ではないでしょうか。あなたが自分をアンリーシュできたら、今度はあなたが、誰かをアンリーシュすることだってできるのです。

(取材・文 小野田弥恵)

尾原和啓
IT批評家。京都大学大学院で人工知能を研究。マッキンゼー・アンド・カンパニーを経て、NTTドコモのiモード事業立ち上げを支援。その後、リクルート、Google、楽天(執行役員)などで新規事業や投資に従事。経産省対外通商政策委員、産業総合研究所人工知能センターアドバイザー等を歴任。シンガポール・バリ島を拠点に人・事業を紡いでいる。ボランティアでTED日本オーディションに従事するなど、西海岸文化事情にも詳しい。新刊:『アフターデジタル』 公式ツイッター:https://twitter.com/kazobara

[日経doors2019年4月8日付の掲載記事を基に再構成]