動物には水が必要だ。大きな哺乳類も小さな昆虫も、地上の生物は水がなければ死んでしまう。
ハチも例外ではない。映像は、イラクの都市ナシリヤで撮影されたもの。水滴がしたたり落ちるホースとその周りを飛ぶハチが映っている。見たところ、ハチはしずくをつかもうとしているように見える。ただ、重くて受け止めきれないようで、しずくとともに落下する。すぐに、しずくを離れると、またホースの先に戻り、同じ動作を繰り返す。
賽(さい)の河原で石を積むようなむだな行動を繰り返しているように見えるが、実際は違う。スロー動画で分かるように、ハチはこうやって水を飲んでいるのだ。
「ハチが水を飲む光景は、よく見られます」と、米ミシガン大学生態学と進化生物学教授のエリザベス・ティベッツ氏は言う。「このハチは肉食のカリバチで、良い餌場があれば、毎日通います。水も同じで、あのハチも水がほしいときは、ホースのところに飛んでいくようにしているのではないでしょうか」
動画の撮影者アーメド・アッバース氏も「ハチは何度も戻って来て水を飲んだ」と話している。ティベッツ氏の指摘どおりだ。動画が撮られたのは2018年6月22日。この日の気温は平年よりも高く、40℃を超えていた。
ハチは水を飲むだけでなく、ほかの用途にも使っている。「木くずや樹皮と混ぜて巣を作ったり、暑い日には巣内の温度を下げるのに使いますし、同じ巣の仲間や幼虫に分け与えたりもします」と、ティベッツ氏は説明する。
ティベッツ氏によれば、ハチは仲間同士で水をやり取りする。このとき、いったん飲み込んだ水を口移しで別のハチに渡す「栄養交換」と呼ばれる方法を使うそうだ。
水のあるところでは、ハチをよく見かける。これは、気温が非常に高く、乾燥している日には、水が欠かせないからだ。その一方で、ハチは羽根がぬれても飛べなくなってしまう。
動画のハチは「羽根がぬれ過ぎないように気を付けながら、上手に水を飲んでいるのです」と、ティベッツ氏は言う。絶妙なタイミングで水を集める様は、繊細なダンスのようだ。
(日経ナショナル ジオグラフィック社)
[ナショナル ジオグラフィック 2018年8月21日付記事を再構成]
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