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川谷絵音が考える ストリーミング時代に売れる音楽

日経エンタテインメント!

2019/7/9

音楽批評連載「ヒットの理由がありあまる」で、独自の視点でヒット曲を分析するゲスの極み乙女。の、川谷絵音。最新の音楽トレンドを常に追い続ける彼が、現在注目する新世代の才能を持ったアーティストを語った。

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1988年12月3日生まれ、長崎県出身。ゲスの極み乙女。、indigo la End、ジェニーハイ、ichikoroといったバンドのボーカルやギターとして活躍中。indigo la Endの19年第1弾デジタルシングル『はにかんでしまった夏』を配信中。

僕が最近、新しいアーティストや楽曲に出合うのは、もっぱら「Spotify」「Apple Music」といったストリーミングサービスです。ストリーミングが普及したことで、世界中の音に簡単に触れられるようになった。それはつまり、アーティストにとっては世界中に音を届けられる時代になったということです。

例えば、「Spotify for Artists」という、アーティスト向けのユーザー分析サービスあって、どこでどのように自分たちの楽曲が聴かれているのかも分かります。ヒップホップの要素もあるゲスの極み乙女。はアメリカでよく聴かれている一方、indigo la Endはイギリスで聴かれていたりする。

これはアーティストにとっては本当に幸せなことなんです。正直、日本の音楽界がこれまでCDセールスに固執してきたことは、まさに愚の骨頂で(笑)。ダサいけど売れるみたいな風潮もあって、自分がカッコイイと思う音楽をやっても、売れないから評価もされない的な。でもストリーミング時代なら、評価してくれる層に向けて曲を作り、そこでライブをすればいいんです。これから挙げる僕が面白いと思う若手アーティストたちは、みなストリーミングをうまく活用しています。キーワードを幾つか挙げるとすれば、「BGM」「プロジェクト」「DIY」です。

まずは「BGM」について。ストリーミングで人気を集めるのは繰り返し聴けるBGMにもなる曲なんです。いろんなプレイリストに入りやすい曲のほうが再生回数が伸びやすい。なので、メタルのような激しいサウンドの曲よりもチル系が主流。実際僕がやっているichikoroというインストバンドで、激しめの『Tom!!!』と、心地いい系の『James?』という曲を同時にアップしたら、圧倒的に後者が再生されました。

そういう世界的な傾向をしっかりと分析しているのが、覆面ユニットのAmPm。日本を飛び越え、海外でブレイクしただけあって、そのサウンドはかっこいいだけでなく、BGMとしてもちゃんと通用するものになっている。ガールズバンドのSaToAも、バンドなのにまるでピチカートファイブのような軽やかさがあってBGMのような楽しみ方もできます。

■幅広い曲を持つことが大切

2つ目は「プロジェクト」です。僕は今4組のバンドを並行してやることで、複数のプロジェクトを走らせています。幅広いテイストの楽曲を持っているアーティストが強いんですよね。なぜかというと、ストリーミングにはレコメンド機能があり、また先にも挙げたプレイリストに入れてもらうことで接点が増える。僕自身どのバンドの曲がどんな人に触れるのか分かりません。いろんなプロジェクトがあると、それだけ接点が増えるんです。ソロアーティストのACAね(あかね)が、あえてソロプロジェクトとうたって活動する、ずっと真夜中でいいのに。は面白いなと思いますね。彼女は自分で作詞作曲するけど、曲ごとにアレンジャーを変えているため、ソロとは思えないほどサウンドが幅広い。しかもアレンジャーには、ネット出身の実力あるボーカロイドプロデューサーを起用しているところも今っぽいなと思います。

3つ目は「DIY」。機材が進化し、高いスタジオを使わなくても音楽の知識があれば、クオリティーの高い曲が作れ、ストリーミングなどで発信できてしまう。それだけでなく、自分で作った曲をどう展開していくかをコントロールするという意味も、DIYにはあります。アメリカでは、ストリーミングのみで楽曲をリリースし、17年にグラミー賞まで獲得したインディーズのアーティスト、チャンス・ザ・ラッパーも現れていますしね。今後はインディーズで原盤権を自分たちで持ち、自由たちの意思で活動していくほうが賢いなと思います。4人組インディーズバンドyonawoは、ギター担当がミックスまで手掛け、さらには、ドラムがジャケットの絵まで描くというこだわりぶり。あと、シティポップサウンドの4人組インディーズバンドのミツメも自らのインディーレーベルで10年も活動しています。

最後にこれまでの文脈とは違うんですが、一押ししたいのがシンガーソングライターの折坂悠太。正直僕は彼の曲を聴いた時に「やられた!」と思いました。歌声もサウンドも、まるで年号が逆に進んだ感じの昭和っぽい歌謡曲のようでありながら、世界に通ずるルーツミュージック感もあるんです。なお僕は、「歌謡サウンド」がこれからの音楽界のキーワードになると思っています。連載「ヒットの理由がありあまる」でも触れているので、ぜひ読んでみて下さい。

(ライター 中桐基善)

[日経エンタテインメント! 2019年6月号の記事を再構成]

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