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タイ洞窟救出の舞台裏 無謀な作戦にベスト尽くす

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NIKKEI STYLE

ナショナルジオグラフィック日本版

ちょうど1年前の2018年7月10日、タイの洞窟で行方不明になった少年サッカーチーム全員が無事救出された。彼らを救ったのは、どんな人々だったのか? 方法はほかになかったのか? 振り返ってみよう。

◇  ◇  ◇

行方不明から数日後、世界各地で携帯電話が鳴らされた。電話を受けたのは、英国の元消防士とITコンサルタント、オーストラリアの元獣医に麻酔医だ。いずれも、どこにでもいる普通の中年男ばかり。彼らにひとつだけ共通していたのは、世界屈指の洞窟ダイバーだったということだ。

電話は短く、用件だけが伝えられた。長々と説明している余裕はない。タムルアン洞窟の水位は急速に上昇し、モンスーンの雨も近づいていた。11歳から17歳の12人の少年とそのコーチは、洞窟に閉じ込められたままおぼれてしまうかもしれない。洞窟ダイバーたちは取るものもとりあえず、タイ北部のチェンライ県へ飛んだ。

世界中のメディアが見守るなか、現場には米国、オーストラリア、中国の軍、レスキュー隊も集結、屈強なタイ海軍特殊部隊が陣頭指揮を執っていた。

「世界中に洞窟ダイバーは数百人ほどいると思われますが、あそこまでのダイビングができるのはほんの数人しかいません」と、ナショナル ジオグラフィックが支援するオーストラリアの麻酔医リチャード・ハリス氏は語る。氏は今回の救助で中心的役割を果たした。

タムルアンの状況は芳しくなかった。タイに住む外国人ダイバーたちは、海軍特殊部隊とともに、洞窟の入り口から800メートル入った巨大な空間よりも先へ進むことができずにいた。ふだん、洞窟を訪れた観光客が入るのは、たいていここまでだ。行方不明になる前、少年のひとりが洞窟のなかのパタヤビーチという場所へ行くと話していたというが、そこはさらに奥へ800メートル入ったところにある。その方角からは泥水が滝のように流れ出ており、ダイバーたちを阻んでいた。

洞窟ダイビングは死の危険が大きすぎるため、それを専門とする救助隊は、生存者の救出よりも、遺体の回収に駆り出されることのほうが多いという。ときには、仲間の遺体を運び出すこともある。英国人ITコンサルタントのジョン・ボランサン氏は、タムルアンでも同じことが起こると予測していた。

少年たちが行方不明になってから4日後、ボランサン氏とダイビングパートナーで元消防士のリチャード・スタントン氏は、現場に到着するとさっそく水の流れに逆らって洞窟の中へ入った。後から入ってくる人のために重いクライミングロープを固定しながら、一歩一歩前へ進んだ。それから4日間、世界中から集まったダイバーとタイの特殊部隊は、真っ暗闇の中1日12~14時間かけて捜索活動にあたった。広い空間に出るたびに水面から顔を出し、少年たちがいないかを確認した。

10日後、少年たちはまだ発見されていなかった。生存の可能性は最高でも10%と計算する者も現れ始めた。その日ボランサン氏とスタントン氏は、タンクの空気を節約しながら行けるところまで行ってみようと決意していた。ようやくパタヤビーチへたどり着いたが、少年たちの姿はなかった。さらに先へと進んだが、持参した空気の量も残り少なくなっていた。できるだけ空気を長持ちさせるため、水面へ出た時にはタンクのバルブを閉めた。ついに、入口から2.4キロ以上奥に入った第9空間へ到達した。水面へ出てマスクを取ると、途端に異臭に襲われた。 

「腐敗し始めた遺体の臭いだと思いました」と、ボランサン氏は後に語っている。ところが懐中電灯であたりを照らしてみると、そこにはやつれた少年たちの笑顔が並んでいた。ボランサン氏のヘルメットに取り付けられたビデオカメラが、この時の様子をとらえている。その映像は、それから間もなく世界中に拡散された。後ろで人数を数えるスタントン氏の声と、ボランサン氏が話しかける落ち着いた声も、カメラは拾っていた。「何人いる?13人?よし!」

翌日、医師を含む7人の特殊部隊が食料と医薬品を届けた。これから先の救助活動に備えて、少年たちの体調を整えなければならない。到着した時点で空気を使い果たしてしまった医師と3人の隊員が、現場に残った。問題は、この後だ。

ここから外へ出る道には、天井まで冠水している区間が少なくとも800メートルはある。水が引くまでの6カ月間、食料を届けて洞窟の中で待つという案もあった。だが、ダイバーたちが洞窟内の酸素量を測定したところ、通常なら大気中に21%含まれているはずの酸素が、すでに15%以下に落ち込んでいることがわかった。これでは、1カ月と持たないだろう。

2010年にチリの鉱山落盤事故で地下に閉じ込められた作業員を救出したときのように、洞窟の上からドリルで穴を開けるという方法も検討されたが、難しすぎるうえに大きな危険を伴う。ボランティアのロッククライマーや鳥の巣コレクターまでもが、洞窟への別の入り口がないかと、山にできた深いくぼみをくまなく調べたが、何も見つからなかった。

残された道はひとつ。水中をダイビングして元来た道を戻ることだ。しかし、少年たちとコーチにダイビングの経験はない。発見場所から戻ってきた特殊部隊の隊員たちでさえ、少年たちを連れて洞窟内の曲がりくねった道や、突起物の多い空間を通り抜けるのは不可能だと考えていた。汚水が15メートルも続く場所があるほか、最も狭い場所は幅がわずか60センチしかない。

そして不幸なことに、タイ軍の元特殊部隊員で熟練のダイバーだったサマン・グナン氏が、空気タンクを洞窟内へ運んでいる途中に死亡した。何があったのか誰にもわからなかったが、この出来事で、少年たちがいかに厳しい状況に置かれているかが浮き彫りになった。

結局、英国チームは、方法はひとつしかないと判断した。少年たちに鎮静剤を打って意識を失わせ、フルフェイスの密閉マスクをかぶせて運ぶというものだ。万が一移動中に意識を取り戻すと、パニックに陥って自分と救助者の命を危険にさらす恐れがあるため、対策として少年たちの腕を後ろ手に縛る。さらに、特別なハーネスを少年の背中に付け、ダッフルバッグのようにして運ぶ。

ハリス氏は、洞窟ダイビングの経験を持つ数少ない医師として白羽の矢を立てられた。洞窟ダイビングをする麻酔医は、知られている限りハリス氏を含め世界にたった2人しかいない。初めのうち、ハリス氏は計画に猛反対した。「成功するとはまったく思っていませんでした。最初の2人がおぼれてから、別の方法を考えることになるだろうと思っていました。生存の確率はゼロだと」

だが、予想に反して事はうまく運んだ。時間をかけて入念に準備を行い、少年たちはひとりずつウェットスーツを着て渡された薬を飲み、強力な鎮静剤を打たれた。これで恐ろしい体験を記憶することもないはずだ。ほとんどの少年は、途中で1~2回鎮静剤を打ち直さなければならなかった。

計画の詳細が明らかになると世界中が仰天したが、少年たちは意外にもあっさり受け入れたという。無理もない。井戸に落ちたような真っ暗闇のなか、窒息死、溺死、凍死、餓死、はては生き埋めまで、考え付く限りありとあらゆる恐怖にさらされていたのだ。寒さと空腹のなか、家族との一刻も早い再会を待ちわびる少年たちは、驚くほど勇敢だった。誰ひとりとして涙を見せる者はいなかった。

少年たちのいた場所は、入り口から9番目の空間だった。第3空間と第9空間の間は、英国出身の熟練した洞窟ダイバーが運搬役を担った。各空間には、ヨーロッパ出身のダイバーたちが待機して運搬を手伝った。第3空間へ到着すると、少年たちは米軍医療チームの診察を受け、その後、複数の国のボランティアにゆだねられ、救助用そりに乗せられた。ついに洞窟の外へ姿を現すと、すぐにチェンライの病院へ運ばれた。全員健康状態は良好だった。移動中の恐怖を覚えている者はいなかった。

救助活動は成功裏に幕を閉じ、その後ダイバーたちは祖国で勲章を授与された。だが本人たちは英雄扱いされることを拒み、むしろ少年たちと救助に協力したボランティア全体の働きに称賛を送った。あるダイビング・インストラクターが聞いたところによると、現場には7000人以上のボランティアが集まっていたという。そして、1日2万食の食事を作って救助隊に無料で提供したり、排水ポンプで水を汲みだしたり、洞窟内に流れ込む水の量を減らすために上流で川の流れを変える作業にあたった。エンジニアや掘削隊が岩を掘り、地下水をくみ上げた。おかげで近くの田んぼに水が押し寄せ、貧しいタイのコメ農家は貴重な作物を失ったが、補償を要求する者はいなかった。タクシー運転手は、空港から現場までボランティアを無料で送迎した。救助隊の服を洗濯するボランティアもいた。外国人と地元住人が、一致団結して救助に当たった。

ほとんどの人は、洞窟ダイビングに関する記事を読んだだけで胸がドキドキするだろう。趣味でなぜそこまで危険なことをするのか、理解に苦しむかもしれない。

「とても脳に訴えかけるスポーツなんです」と、リチャード・ハリス医師は言う。「アドレナリンが出るスポーツではありません。心は瞑想状態に入ります。水中でリラックスし、気分を落ち着かせ、ゆったりするのが醍醐味です。洞窟ダイバーには、どちらかというと内向的で物静かな人が多いです。けれど、今回救助の最前線で活躍した彼らほど、有能で経験豊かで、勇敢な人々はいないでしょう」

ハリス氏と一緒に救助にあたったクリス・チャレン氏は、オーストラリアで民間人に与えられる最も栄誉ある勲章を授与された。そのチャレン氏が記者に対して語った言葉は、おそらくすべての洞窟ダイバーに共通する思いだろう。「私たちは、ふたりとも普通の人間ですよ。ただ、ちょっと変わった趣味を持っているだけのことです」

(文 Joel K. Bourne. Jr.、訳 ルーバー荒井ハンナ、日経ナショナル ジオグラフィック社)

[ナショナル ジオグラフィック 2019年3月17日付記事を再構成]

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