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「社命での転勤をゼロに」 AIG損保が目指すゴール

AIG損害保険 福冨一成執行役員(下)

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NIKKEI STYLE

社内外に大反響を生んだ、AIG損害保険の「全国転勤廃止」制度。全社員の要望をかなえることなど可能なのだろうか。前回「望まぬ転勤廃止で新卒応募10倍に AIG損保の決断」に引き続き、人事担当の福冨一成執行役員に聞いた。

エリアごとの採用も開始

白河桃子さん(以下敬称略) 勤務地を選んで転勤しない、75%のノンモバイル社員の内訳に年齢や性別の偏りはありましたか?

福冨一成さん(以下敬称略) 性別は女性がやや多く、年齢に関しては特に顕著な差は出ませんでした。逆に転勤OKのモバイル社員を選択したのは、未婚の若手や年次の高い層が多かったですね。

白河 年次が高い層が多いのはどういった理由でしょう?

福冨 おそらく「転勤が当たり前で育ってきた」のが一つ。また、子育てや介護が一段落してフリーになっているからという理由もあるようです。当社の平均年齢は約44歳ですが、ちょうど子育てに手がかかり、親の介護も差し掛かってくる年代ですので、このメイン層はノンモバイル社員を選択する人が目立ちました。

白河 たしかに、40代半ばといえば、そろそろ親が後期高齢者になる時期です。

福冨 実はまさに私も遠距離介護を経験して苦労しまして。地元が大阪なのですが、ここ3年ほどで急に実親がバタバタと要介護状態になりまして。姉が近くにいるのでなんとかなっていますが、親の手術中に病院の待合室からリモートで経営会議に出席したこともありました。介護は待ったなしで急に始まるので、その時に「希望のエリアで働ける」と会社から準備してもらえることは、相当な安心材料になるのではと思います。

白河 実体験に基づく決意があったのですね。最近は、不妊治療を転勤免除の理由に加える企業も出てきていますし、いかに個人のライフに寄り添えるかが企業に問われる時代だと感じます。きっと中途採用に興味を持つ人もいるのではないかと思うのですが、採用はどのように計画していますか。

福冨 新卒も中途も、エリアごとの採用の正式導入を始めています。これまでは東京と大阪での採用活動中心だったのですが、地方の大学と話を進めてみると、優秀な人材、特に女性が多く採用できそうな感触を得ています。新卒は来年度からの正式導入予定で、すでに準備を進めています。男性にも「住み慣れた地域に貢献したい」と地元志向の人が増えている実感はありますので、これまで私たちが接点を持てていなかった方々に選んでいただけるようになれたらと。

白河 地方創生の面でも非常にいい展開になりますね。これまで地方の有力就職先だった電力や銀行が衰退している今、地方からの流出が止まらないことが大問題になっています。ある地方都市の自治体の方が、「地元50社の就職説明会に学生80人しか来なかった」と肩を落としていたんです。若者にとっても、地元でしっかりキャリアパスをつくれるのは安心ですよね。中途採用への反応はいかがですか?

福冨 損害サービスの職種をエリア限定で募集したところ、非常に反応が良かったと聞いています。なんらかの理由で退職していた経験者の方や、「今は東京で働いているが、そろそろ地元に帰りたい」という方のニーズに合ったようです。

白河 一連の施策に対して、社員の皆さんのリアクションはいかがですか?

福冨 組合も含めて、おおむね歓迎の声が多数ですが、まだ始まったばかりですので「本当にできるの?」という見方が多いようです。モバイル社員からは「実際にどういう勤務地で働くことになるのか不安がある」という声も聞かれましたので、丁寧に説明会を重ねています。

細かいマッチングには苦労も

白河 長年なじんできた慣習を変えるのには、特に意識の変化に時間がかかりますよね。せっかく勤務地を自由に選べるのに、「そうはいっても東京の近くで働かないと、いい役職には就けないんじゃないか」と考えて、本心に反して首都圏を選ぶ……なんてことも起きうるのでは?

福冨 当社の場合はもともと各地に権限を移譲してきた文脈がありまして、各エリアにも部長・本部長職はあるんです。

白河 東京に重職が偏っている会社に比べると、地方勤務の不安要素は少ないということですね。しかし、社員の希望をパズルのように組み合わせる人事の方の負担は大変ではないですか。

福冨 今は過渡期ということもありますが、細かい部分でのマッチングで苦労していますね。職位がマッチしても、「経験してきた領域と専門性が違うので、動かせない」といったことは頻繁に起きます。これは、ラインごとに専門性を積み重ねていくキャリアコースを重視してきた従来の人材育成の考え方の結果でもあるので、今後はより部門を越えた多様な経験を重ねていくマルチスキル型のキャリアコースを促進していく必要がありそうです。

あとは、社員の希望にも温度差があるので、正確にヒアリングすることが重要だとも感じています。アンケートで希望勤務地を書いていたから配置しようとしたのに「実は今じゃなかった」という答えが返ってきたり、逆に迷った揚げ句に無回答だったのに実は切羽詰まった問題を抱えていたり、細かく聞いてみないと把握できないものだと実感しています。特に希望が集中したエリアに関しては、プライオリティーをどう付けるかが重要な課題になりそうです。

白河 社員のほうも、自分のキャリアプランをしっかりと計画し、正確に伝える力を身につけないといけませんね。これまでは「会社から言われた通りに動くしかない」と諦めていたから、あまり考えてこなかった面もあると思います。これからは、自律的に自分のキャリアをつくる時代になったということでもありますね。

人気エリアでは選ばれる人材になる必要も

福冨 まさにそれが会社としてのメッセージです。この制度の大きな目的は、社員の希望をなんでもかなえる会社になることではなく、「真に力を発揮できる場で、ビジネスを成長させていく人材に活躍いただきたい」というものです。人気エリアで働くには、選ばれるだけのスキルを磨く必要も出てきます。むしろ厳しく姿勢が問われる環境になったと、受け止めている社員も多いはずです。

白河 途中で気が変わったり、人生設計がガラリと変わったりしたときに希望を変えることもできるんですか? 例えば、結婚して夫が働く北海道で自分も働くことにしたけれど、後で離婚して、また戻ってくるとか。

福富 はい。もちろん想定していて、希望を聞くアンケートは年1回行う予定です。さらにいえば、将来的には社員それぞれの自主選択を尊重して「社命での転勤ゼロ」を目指せればいいとゴールを描いています。今でもグローバルで実施している社内公募がありますが、それをもっと活用し、拡大できれば理想だと考えています。個々の社員がその時の事情やキャリアプランに応じてチャレンジしたいポジションに手を挙げられる仕組みができればベストです。

白河 スウェーデンに本社を置く某外資系企業に伺った際、「うちは人事から任用を指示することはありません」とおっしゃっていました。グローバルですべてのポジションがオープンになっていて、応募したい人が応募するそうです。スキルや経験がそのポジションに見合うと判断されたら、希望の行き先に転勤できる。「3年くらいスウェーデンで働きたいなと思ったので、手を挙げました」という人もいましたね。これが本来あるべき働き方なのかもしれないなと感じました。

福冨 まさにそういう会社を目指していけるといいと思っています。

白河 御社の経営陣は外国人も多くいらっしゃいますが、彼らから見て日本企業の転勤文化はどう映っていたのでしょうね。

福冨 「単身赴任」はあり得ない、とよく聞きますね。「家族、特にパートナーと離れて暮らすことを強いるなんて信じられない」と。ですから、今回の施策の中には「単身赴任をなくす」という指針も組み込んでいます。

白河 まさに一石を投じた英断だと思います。しかし、1社だけでは到底無理で、業界全体もどんどん続いてほしいですね。

福冨 課題はまだまだありますが、おかげさまで注目していただいていますし、強い気持ちでやっています。異業種からも「詳しく話を聞かせてほしい」というご要望を多くいただきますし、できるだけ具体的にお伝えするようにしています。

白河 やはり反響が大きいのですね。

福冨 お話ししてみると、「うちでもできそうです」とおっしゃる会社と「うちはまだ難しいな」とおっしゃる会社があるのですが、両者の違いは制度の事情です。合併の歴史がある企業の場合、複数の会社の人事制度が並走して複雑化し、転勤制度を根本から変えるには大きなハードルがあるようです。

当社の場合は、合併に際して組合と話し合いを重ねて苦労しながらも制度一本化を実現できていたので、その後の転換はスムーズでした。会社によっては時間がかかると思いますが、大きな流れをつくれたらと思っています。

白河 業界を越えて、全国規模で「本人の意志を尊重しない転勤の廃止」が進めば、日本の働き方は大きく変わっていきそうです。今後の成果にも注目していきます。

あとがき:SNS(交流サイト)に端を発したカネカの育休明け転勤問題は、いわゆる「炎上」状態となりました。しかし、会社としては「普通の対処」をしたにすぎないと考えているのだと思います。なぜなら「転勤は当たり前。いちいち個人の希望を聞いていられない」というのがその企業の常識だったからでしょう。しかし昭和の「普通」が令和では炎上になりかねません。

友人も2週間前の辞令で国内転勤を言い渡されましたが、「2週間では粗大ゴミも出せない」とつぶやいていました。あたかも専業主婦の妻がいることが前提のような「転勤」制度は「何のために必要なのか?」を問い直す時期に来ています。このAIGの試みが参考になればいいなと思います。

白河桃子
 少子化ジャーナリスト・作家。相模女子大客員教授。内閣官房「働き方改革実現会議」有識者議員。東京生まれ、慶応義塾大学卒。著書に「妊活バイブル」(共著)、「『産む』と『働く』の教科書」(共著)、「御社の働き方改革、ここが間違ってます!残業削減で伸びるすごい会社」(PHP新書)など。「仕事、結婚、出産、学生のためのライフプラン講座」を大学等で行っている。最新刊は「ハラスメントの境界線」(中公新書ラクレ)。

(ライター 宮本恵理子)

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