組織に過剰反応する病理 自己チュー上司は反面教師に『他人の足を引っぱる男たち』河合薫氏

うっとうしい「ジジイ層」とのかかわりを避け、労働力を切り売りして、プライベートの時間に生きがいを見いだすような身の処し方はあるだろう。しかし河合氏は「1日8時間の使い方としてはもったいない」と説く。

「半径3メートルの革命」に挑め

「粘土層」に向き合うなら、まず彼らがなぜ身を固くしたのかを考えてみよう。理由はちゃんとある。それは何度も何度も「ジジイの壁」の強固さを思い知らされてきたからだ。例えば、斬新な発想の企画書を提出したのに役員会を通った段階では、見る影もないまでに骨抜きにされていたといったケースだ。「やる気を失ったというような苦い体験は、発案者の魂を削る」(河合氏)

一方、憧れの先輩が冷や飯を食わされ、おべっか使いの俗物ばかりが出世していくのを見るにつけて、志はしぼんでいく。今さら取り巻き連中の輪に加わる気にもなれず、壁の外側にへばりつくという消極的な選択に落ち着くわけだ。

真正面から改革を唱えても「ジジイ層」が自己否定を許すわけもない。かえって居場所を失うリスクは小さくない。だが、河合氏は「全面的にあきらめてしまう必要はない」とささやく。むしろ、事を荒立てすぎず「ジジイ層」を刺激しないで、「半径3メートルの革命」を静かに進めるほうが成果を出しやすいという。後輩に語りかけ、チームの仲間とあいさつを交わすといった、自分の声が届く範囲での取り組みから始めることを河合氏は勧める。

上司にいちいちあらがっていては、厄介者扱いされてしまい、自分が損をする。でも、会社のいいなりになっていると、緩慢な「ジジイ化」が迫る。つまり、程よく折り合いを付けながら、自分の牙を自ら折ってしまわないよう「軸」を保つ意識が求められるわけだ。

河合氏は「10回に1回は、とことん踏ん張れ」と心あるビジネスパーソンの背中を押す。逆に言えば、10回に9回は流れに任せて構わないわけだ。これぐらいの頻度であれば、大人の振るまいと自分らしい骨っぽさを両立させやすいかもしれない。

「ジジイ層」のはびこった企業では、足を引っ張り合う行為が常態化しているので、斬新なアイデアはつぶされがちだ。常にイノベーションを求められる現代企業にとっては、致命的ともいえる「残念な社風」と映る。その場合、転職が魅力的な選択肢になってきそうだが、自分が「小ジジイ化」していると転職の妨げにもなりかねない。先の定義にあった通り、ジジイ化は「属性で人を判断し『下』の人には高圧的な態度をとる」という気質を帯びるので、転職先で求められるチームになじみにくくなってしまう。年次がものを言わないフラットなチームでは、歓迎されにくいだろう。

会社を利用して自分のキャリアを育てる

そもそも他人の手柄になりそうなアイデアをつぶすことにきゅうきゅうとする「あら探し思考」からは、転職先で期待される「即戦力」にふさわしいパフォーマンスを引き出しづらい。「他人の足を引っ張り続けていると、ポジティブな考えが浮かびにくくなる」と河合氏は警告する。同じ会社で定年まで勤め上げる仕組みは「小→中→大」と至る「ジジイ出世」を支えてきたところがあるが、転職を織り込んだキャリアづくりを前提にすれば、上役の顔色をうかがう必要もなくなる。むしろ「会社を利用して、自分のキャリアを育てるという発想に切り替えていける」(河合氏)。

上世代のジジイが退場するのを待とうと考えていると「経営判断にコミットできるようになる頃には、自分がジジイ化している可能性を無視できない」。「会社員という病」は静かにむしばんでいくから、不断の感染チェックが欠かせない。本書に挙げられた事例は、自分を振り返って、感染度を知るものさしにも役立つ。セルフチェックを怠らないようにすることは、将来の転職を見据えて、自分の「商品価値」を保つことにもつながるはずだ。

河合薫
健康社会学者(Ph.D.)、気象予報士、東京大学大学院医学系研究科博士課程修了。千葉大学教育学部を卒業後、全日本空輸(ANA)に入社。気象予報士としてテレビ朝日系「ニュースステーション」などに出演。その後、東京大学大学院医学系研究科に進学し、現在に至る。産業ストレスやポジティブ心理学など、健康生成論の視点から調査研究を進めている。著書に『他人をバカにしたがる男たち』『残念な職場』など。

他人の足を引っぱる男たち (日経プレミア)

著者 : 河合 薫
出版 : 日本経済新聞出版社
価格 : 918円 (税込み)

他人をバカにしたがる男たち 日経プレミアシリーズ

著者 : 河合 薫
出版 : 日本経済新聞出版社
価格 : 918円 (税込み)

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