組織に過剰反応する病理 自己チュー上司は反面教師に『他人の足を引っぱる男たち』河合薫氏

不祥事が頻発する背景にも見え隠れ

「他人の足を引っ張り続けていると、ポジティブな考えが浮かびにくくなる」と助言する河合氏

もっとも、誰もが入社の最初から「ジジイ候補生」だったわけではない。建設的な組織改革や画期的な商品アイデアを提案した人もいたはずだ。しかし、分厚い「ジジイの壁」に跳ね返されてしまい、その繰り返しに疲れてしまう。「その結果、ジジイ層の軍門に下ったケースが大半だ」と河合氏はみる。「人間は良くも悪くも適応する生き物。会社に過剰適応する人が増えた結果、ジジイがはびこった」(河合氏)。筋を通して波風を立てるより、ずっと楽な生き残り方を選んだ結果がジジイ化だったともいえるだろう。

ところで、「2018年はジジイの“当たり年”だった」と河合氏は振り返る。忖度(そんたく)が流行語になり、アマチュアスポーツ界を牛耳ってきた人たちが権力の乱用を批判されて立場を失った。立場の弱い人を苦しめる各種のハラスメントが毎日のようにメディアで報じられて大勢が驚き、あきれた。「権力を振りかざすジジイの危うさに、世の中があらためて気づいた」と河合氏は組織の弊害を露出させた意義を認める。

あそこまで露骨ではないにしても、自分が「ジジイ的思考」や行動パターンにむしばまれてはいないかと、我が身を照らす方向に思いを転じた人はどれぐらいいただろうか。多くの人は「異常で特殊な困った人たち」として、自分とは切り離して批判していた傾向が否めない。実は、そこが組織のおそろしいところである。「本人が意識しないうちに、じんわりとジジイ化を進行させていく」(河合氏)

手抜き検査・工事や不適切融資、データ改ざんなど相次ぐ企業不正の背後にも、河合氏は「ジジイ層」の悪影響があると見抜いている。「大ジジイ」がこしらえた前例を覆せず、法令順守を求める内部の声を抑え込んできたことが不正の長期化につながった可能性がある。「社内の上(幹部層)しか見ようとしない態度は消費者や取引先の軽視につながりやすい」(河合氏)。コンプライアンスを空洞化させ、企業の存続すらおびやかしているのだ。

後輩とも激しく競争

河合氏は「組織スリム化」から副作用が生じたとも指摘する。風通しをよくして経営判断のスピードアップを狙ったはずの改革が、かえって「ジジイ層」への権力集中を助長したという。昭和の昔と違い、誰もが横並びで課長、部長と出世できる時代は終わった。組織スリム化でポストは減った。年功序列が崩れた結果、入社同期だけではなく後輩ともポストを争う状況に追い込まれた。

「苦労してつかんだ椅子を簡単に譲り渡したくない。ましてや後輩に抜かれるのはまっぴらごめんだ」。「年金制度が頼りないから、現役のうちに少しでも上へ行きたい」……。こういった事情や気持ちが上役へ擦り寄る態度につながっていく。

河合氏は岩盤を形成する「ジジイ層」だけではなく、その体制維持を許している「粘土層」にも厳しいまなざしを向ける。積極的に手を貸すのは控え、自分の仕事に集中していても、実は病理のまん延に手を貸しているのだ。「当事者意識を持たない評論家的な態度や、我関せずといった距離の保ち方では、自分の成長を妨げているのと同じ」とみる。

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