『君の名は。』が世界的ヒットとなった新海誠監督の最新作『天気の子』が7月19日に公開となる。昨年末の製作発表では、川村元気プロデューサーが「大ヒット後の映画監督は、作家性の高い方向に行くものだが、新海監督からはものすごいド真ん中のエンタテインメントが来た」とコメント。一方で監督本人は、「賛否が分かれるメッセージを込めた」と語る。監督の思いをインタビューで聞いた。

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『君の名は。』で僕がいただいたものは、膨大な数の観客の方々との出会いだったと思っています。日本だけで1900万人、海外ではもっと多くの方々に見ていただけたのですが、そうなると次は、『君の名は。』の次作というだけでたくさんの方々に見てもらえるのではないか。だとすれば、「だからこその作品にしなければいけない」ということを、最初から強く考えていました。これまでと桁の異なる数の観客の方々に、何を語るべきか。これかなと思えたのが「天気」というテーマでした。
『君の名は。』が公開し、次作のことを考え始めた2016年は暑い夏でした。プロモーションに追われているときに空を見ると、成長しきった積乱雲が大気の層にぶつかって頭頂が水平に広がっている。あんな場所でのんびりしたいなとぼんやり考えていたのが、『天気の子』に真っすぐつながった発想だったと思います。
価値観がぶつかるということ
「天気」は、すごく離れた遠い場所で起きている巨大な現象で、地球の循環や営みそのものです。なのに、誰もが1日に一度は口にするような言葉で、個人個人にも深く関わる現象です。気圧の変化1つで精神的にも影響を受けたり、青空なのか雨なのかで気分がまるで違ったり。現象としても面白いし、誰にとっても無関係ではいられないテーマ。これなら、と考えました。
そしてもう1つ。『君の名は。』の次ですから、興行的にも超メジャーなものになります。であれば、多くの人々の価値観が対立するような映画を作りたい。見てくれた誰かと誰かの価値観と価値観がぶつかるような映画でなければいけない、とも考えました。
価値観がぶつかるというのは、「正解がない」ということです。教科書に書かれていたり、政治家や批評家が語るような正しさではなく、“正しさ”は人それぞれのものだし、僕たちが作るのはエンターテインメント映画なのだから、極端な言い方をすれば、正しくない内容を語ろう、いわゆる賛否の分かれるものを作りたいと思ったのです。
もともと僕の作品は、ファンの方が見てくれて、見るはずのない人たちは見ないタイプの映画でした。ところが『君の名は。』で観客のスケールが大きくなったことで、『天気の子』は、本来、僕の映画を見ない人たちも見てくれる可能性があるわけです。想定していなかった人とも、きっと不可避に出会ってしまう。大きなコミュニケーションが映画とたくさんの観客との間で生まれる。それによって、人々の反応であったり、何かが“観測”できるのではないか。あるいは、僕が次に作るべきもの、みんなが本当に見たい“何か”を、そこからもらえるのではないか。これまで経験していなかったことが体験できるのではないかと考えました。今、自分は観客とのコミュニケーションに興味を持っているので、そうした姿をすごく見たいのです。
もちろん、感動し、泣けて、楽しい映画にすることは大前提だとしても、ただ楽しかっただけでは終わらずに「私は違うと思う」「いや、俺だったらああしてしまうかもしれない」と、見た人の意見が分かれるものを投げなければならない。そうでなければ、こうした大きな舞台で映画を作らせていただく意味がないと思いました。もちろん、賛否が分かれるかどうかは公開してみないと分からないことですが…。でもそれが、今、一番楽しみにしていることです。

離島から東京に家出してきた少年・帆高は、「祈る」ことで空を晴れにできる不思議な力を持った少女・陽菜と出会い、天気を仕事にすることを思いつくが…。現代の閉塞感を象徴するような曇天に、真っすぐな青春の光が差し込む。新海誠監督が、全世界に向けて新たなメッセージを発信する(2019年7月19日(金)公開/東宝配給)(C)2019「天気の子」製作委員会
(ライター 波多野絵理)
[日経エンタテインメント! 2019年8月号の記事を再構成]
※インタビューの全文は、発売中の日経エンタテインメント!8月号『天気の子』最速特集に掲載。新海誠監督のロングインタビューのほか、醍醐虎汰朗×森七菜、小栗旬、本田翼らキャスト、スタッフへの取材を通して、今年最大の話題作がいかにして作られたのかを明らかにします。さらに作画監督・田村篤氏の描き下ろしによる特製クリアファイルの付録付き。