シンデレラ体重より適正体重 継続できる美習慣つくる
若い女性たちに広がる間違ったダイエット法に警鐘を鳴らす、ウェルネス&ダイエットエキスパートの和田清香さん。無理なダイエットが引き起こす危険性と、リバウンドせずに健康的で美しいボディーを手に入れるための考え方を紹介する。
20代女性の2割が痩せ過ぎ 戦後より悪い栄養失調状態
お昼時のコンビニ――。20代とおぼしき女性がレジ前で手に持っていたのは、ミニサイズの野菜サラダとインスタントの春雨スープのみ。え? まさか今日のランチはこれだけ? 驚きつつもイートインスペースに向かうと、他の若い女性もおにぎり1個とスムージー飲料のみで、一様にごはんの量が少ない。午後のおやつを食べるにせよ、これだけで栄養は足りるのだろうかと勝手に心配になった。
厚生労働省の調査(2017年「国民健康・栄養調査」)によると、20代女性の5人に1人(21.7%)が、骨量減少や低出生体重児出産など健康上にさまざまなリスクをもたらす可能性のある「痩せ」だという。しかも20代女性の平均摂取カロリーは1694kcalで、食糧難だった終戦直後よりも栄養状態が悪いというのだ(1950年の20代女性の平均摂取カロリーは2098kcal。ちなみに、20代女性の必要カロリーは1950kcal/日)。国際的にも見ても、日本人の女性は痩せ過ぎの傾向があり、先進国の中で最も「痩せ」が多いという調査結果も出ている。
「専門学校や大学で女子学生たちにダイエットについて教える機会があるのですが、『痩せるためにはごはんの量を減らせばいい』と単純に考えている学生が結構多いんです。体重を減らそうとして朝食を抜いたり、お昼をサラダやスープ、糖質ゼロのゼリーなどで済ませたり。カロリーや糖質・脂質を減らせば痩せられると考える若い世代は多いですが、栄養分が不足することで、体が『飢餓状態』に陥り、栄養を吸収する効率が高まって太りやすくなります。
さらに筋肉量が落ちることで全身の代謝が落ち、痩せにくく太りやすい体に。体重を落とすはずが、かえって太ってしまったり、不健康になってしまったり、と本末転倒な結果になりかねません」(和田さん)
ほかにも間違ったダイエットの考え方が若い世代の間で広がっており、危機感を抱いていると和田さん。それは一体、どういうことだろうか?
若い世代が憧れる「シンデレラ体重」は危険
皆さんは、「シンデレラ体重」という言葉を耳にしたことはあるだろうか? 2016年ごろから女子高生の間で話題になったもので、憧れのモデルやタレントのようにほっそりとキレイに見える「理想体重」として若い女性たちに支持されていた。では、そのシンデレラ体重とはどういうものなのか? 計算式を適正体重と比較してみよう。
シンデレラ体重=身長(m)×身長(m)×20×0.9
<適正体重の計算式>
適正体重=身長(m)×身長(m)×22
20~30代女性の平均身長である158cmで計算すると、適正体重は54.9kgになるが、シンデレラ体重では44.9kgと10kgも差が出る。さらに体格指数(BMI)で見ていくと、このシンデレラ体重は18.5を下回り、明らかに「低体重」の判定となる。
「痩せてきれいになりたいという気持ちは分かりますが、体重だけ落としてシンデレラ体重になったとしても、見た目が美しくなるわけではありません。『筋肉が少なく脂肪多めのシンデレラ体重』よりも、『健康的で適度に筋肉のある適正体重』のほうが、メリハリのある美しいボディーに見えるものです」
何より、痩せ過ぎは冷え性、生理不順などさまざまな健康トラブルにも発展しかねない。「将来的に不妊に悩んだり、低体重児の出産などにつながるケースもあります。無理なダイエットは自分の体だけでなく、未来の大切な人にまで影響を及ぼすことをぜひ考えていただきたいです」
と、ここまで強調するのは、和田さん自身、10~20代の時に無理なダイエットを課し、たびたび失敗を重ねてきたから。痛い経験があるからこそ、痩せることよりも、「健康美の大切さ」を訴える。
数々のダイエットに失敗し、ますます自信喪失
「実は、痩せるためにあれこれ試し始めたのは中学時代からなんです。小さい頃から体格がよく、ぽっちゃり体形だったのがコンプレックスで、どうにか細くならないかと毎晩お風呂で体を塩もみしたり、食品用ラップフィルムをおなかに巻いたり。塩で肌を傷め、ラップを無駄にして親に怒られ、散々でした。今度は食事量を減らそうと、りんごダイエットや炭水化物抜きダイエットなど、はやりのものに手を出したんですが、あまりの空腹にイライラし、1週間後にはとうとう食パンをかじる夢を見てしまいました(笑)」
自己判断で強めの痩身サプリメントを飲んだり、過酷な「水だけ断食」を決行したりした結果、意識が遠のくほどの立ちくらみに見舞われた経験も。それでも体重が減るどころか、むくみや便秘、肌荒れなどに悩む不健康体になってしまった。
「自分の体形が嫌で次々といろんな方法に飛びつくものの、その手法そのものが間違っているのですから、当然、結果には結び付かず、不健康になってしまいました。ますます自分が嫌になり、自信を失うばかりでした。心身共にアンハッピーな20代でしたね」
自分を痛めつけるような無理なダイエットはもうしたくない――。今度こそ、健康的に美しくなろうと決意したのが30歳になる直前だった。
まず、20時以降の夕食や夜更かしをやめて、代謝が上がりやすい「朝型生活」に変えた。いつもより1~2時間ほど早く起きてストレッチや部屋の掃除など体を動かし、朝食もタンパク質、炭水化物などしっかり取るようにしたのだ。
また、おっくうで休みがちになっていたジムを退会し、子どもの頃に習っていたバレエを再開して「自分が心から楽しめる」運動を始めた。その結果、1年で10kg減、5年かけてトータル15kg痩せていった。合計6年かけて15kgマイナス。かなりゆっくりペースにも思えるが……?
一生続けられるかどうかがポイント
「1カ月に数百グラムのペースでじわじわ痩せていったので、周りの人に気付かれなかったほどです(笑)。それぐらい緩やかな落ち具合だと体に負担がなく、さらに辛い食事制限をすることもないため、反動からリバウンドすることもありません。一時的に『〇〇ダイエット』に励むよりも、『生活そのものを変える』ほうが無理なく自然に痩せていきます」
もし健康的な体を手に入れたいなら、「その方法って一生、続けられる?」と自分に問うことも大事だと和田さん。
「極端に聞こえるかもしれませんが、一生、炭水化物を抜くことはできるのか? 一生、毎日5km走り続けられるのか? 今やろうとしている健康法を今後も長く続けられるかを考えてみて、無理そうだなと思ったらやめておいたほうがいいです。緩くても、長い時間がかかっても、生涯続けられそうな『自分に優しいやり方』を選ぶといいですね」
6年かけて緩やかなダイエットを行い、今は50kg前後をキープしている和田さんだが(身長は164cm)、体重が40kg半ばぐらいまで痩せてしまうとパワーが落ちて疲れやすく、逆に55kgを超えてくると体が重だるくなることが経験から分かったそう。
「人それぞれ、心地よく動けるベスト体重は違います。人前で体重をさらすわけではないので、世間一般とは比べずに、自分は何kgぐらいだったら心身の調子がよく、パフォーマンスも上がるのか、探ってみることはおすすめです。ただ、体重はあくまで目安ですので、1kg減った増えたと一喜一憂せず、体脂肪やボディーラインがどれぐらい引き締まったかを見ていくといいでしょう。何より自分が自分の体を見て前よりも好きになれたり、『いい感じだな』と思えたりすることが大事です」
(取材・文 伯耆原良子、写真 鈴木愛子)
ウェルネス&ダイエットエキスパート。NYにて皮膚学・ボディーマッサージを学んだ後、化粧品開発や美容雑誌の編集・ライター業を経験。健康的に15kg痩せることに成功した体験から「ウェルネス&ダイエットエキスパート」として活動を開始。雑誌やテレビ、セミナーなどに多数出演するほか、「レギンス入浴」をはじめ、健康美関連商品の開発も手がける。『30秒でスッキリ! 壁トレ 体を動かすのが好きになる!』(ナツメ社)など著書も多数。
[日経doors2019年4月22日付の掲載記事を基に再構成]
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