ティラノサウルス、驚きの嗅覚 全恐竜のトップクラス

日経ナショナル ジオグラフィック社

現生の鳥の場合、一般に嗅覚受容体(特定のにおい分子と結合するタンパク質)が多いと、嗅球(においを処理する脳の領域)が不釣り合いなほど大きい傾向が見られる。そこで、ヒューズ氏とフィナレッリ氏は、現生の鳥42種、絶滅した鳥2種、アメリカアリゲーター、絶滅した非鳥類型恐竜28種について、嗅球の大きさと測定した脳の大きさの比率に触れた科学文献を調べることにした。また、現生の鳥のDNAを調べ、すべてのデータを先行する研究と照合して、現生動物の嗅覚受容体に関する遺伝子の新たなデータベースを作り上げた。

こうして得られた現生生物のモデルを恐竜にも当てはめたところ、ティラノサウルス・レックスは嗅覚受容体に関係する遺伝子を620~645個持っていたことがわかった。この数は、今日のニワトリやイエネコよりわずかに少ない数になる。また、アルバートサウルスなど他の大型肉食恐竜も、嗅覚受容体に関する遺伝子が多かった。

ところで、においは食べ物を見つけるためだけのものではない。動物は、仲間の識別、縄張りの主張、異性の誘惑、捕食者の検知など、様々なことににおいを利用している。ちなみに、現生の脊椎動物の中で嗅覚受容体に関する遺伝子が最も多いのは草食動物のゾウで約2500個も持つ。ゾウは、その鋭い嗅覚で、においだけで食物の量を数えられるという。

研究では、肉食恐竜よりも草食恐竜のほうがにおいを活用していたことも示されている。例えば、今回調べた草食恐竜の1種、獣脚類のエルリコサウルスは、ヴェロキラプトルといった小型肉食恐竜よりも、嗅覚受容体に関する遺伝子が多いことがわかった。それなのに、肉食恐竜であるティラノサウルスとアルバートサウルスは、全恐竜の中で最も優れた嗅覚を持っていたと考えられるのだ。

未知の香りを嗅いでいた?

では、ティラノサウルスの嗅覚が鋭いのは何のためだったのか? 将来の研究で、ティラノサウルスがどんなにおいを嗅いでいたのかが、正確に解き明かされるかもしれない。ヒューズ氏とフィナレッリ氏は、既存のデータからも、恐竜には血や一般的な植物など、特定のにおいを嗅ぎ分ける能力があったと考えている。しかし、嗅覚受容体に関する遺伝子のすべてが、特定のにおいに関連付けられているわけではないことも留意しなくてはならないだろう。

「とても奇妙なことですが、においがどう作用するかはわかっていても、どのにおいがどの嗅覚受容体に結びつくのかについては、ほとんどわかっていないのです」とヒューズ氏は話す。「ひょっとしたらわかっていても、香水を作る会社が企業秘密で公開していないだけかもしれないですけれど。でも、科学の世界では、特定のにおいとそれに結びつく受容体が何かはまだ解明できておらず、大きな課題になっています」

将来的には、一部の水生哺乳類の祖先が水中に移動した際に嗅覚が退化したことなど、長い時間をかけた感覚の進化でのトレードオフも解明できるとヒューズ氏らは考えている。また、同様の研究は、非鳥類型恐竜にも適用可能で、想像力をかき立てられるとヒューズ氏は話す。

「子供の頃から、ずっと恐竜が大好きなんです」とヒューズ氏。「ですから今回、恐竜に関する知識ベースに少しでも貢献できたことは、本当に嬉しく思っています」

(文 MICHAEL GRESHKO、訳 牧野建志、日経ナショナル ジオグラフィック社)

[ナショナル ジオグラフィック ニュース 2019年6月14日付]

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