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飲み過ぎで体が心配な人 病院が「減酒」をサポート

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2019/7/16

■久里浜医療センターの「減酒外来」とは?

次に、久里浜医療センターの減酒外来について詳しく話を聞いていこう。

「減酒外来とは、その名の通り『お酒を減らすため』の外来のことです。これは、アルコール依存症の人、そして依存症まで行かないけれど飲み過ぎが気になる人(酒乱などの何らかのアルコール問題を持っている人も含む)を対象にしています。最終目的は必ずしも断酒でなくてもよく、通院しながら減酒によって、さまざまな問題を解決することを目指していきます。そして、酒量については、本人と医師で相談して決めています」(樋口さん)

なるほど、酒乱など自分のお酒の飲み方に不安を感じている人も対象で、断酒が最終目的でないなら、受診しやすそうである。これは新しい! 「最後の砦」というイメージのある久里浜医療センターの敷居が一気に低くなりそうだ。

なお、アルコール依存症の中でも重症の人については、最終的な目標は断酒だが、本人が減酒を強く希望する場合は、中間目標として減酒をサポートする。減酒がうまくいかなかった場合は断酒に切り替える。

■飲酒でトラブルを起こし、一生を棒に振る可能性も

少し話がそれるが、最近は、酒癖が悪い芸能人などが事件を起こし、ニュースで取り上げられる機会もよく目にする。読者の中にも、飲酒時にブラックアウトを起こして、そのときの記憶がない、などという経験がある人は少なくないだろう。こうしたときに、自分ではまったく覚えていないのに大きなトラブルを起こし、一生を棒に振る可能性だってあるのだ。詳しくは以前の記事(「原因は遺伝子? 酒乱になる人とならない人、何が違う」)でも紹介したように、私はかつて、酒乱に投げ飛ばされた経験があるが、私を投げ飛ばした当人は、翌日そのことをまったく覚えていなかった。

こうした“酒乱”の中には、そのリスクを理解し、「減酒」したいと真剣に思っている人もいる。こうした人の減酒をサポートしてくれる治療があるというのはとても意義があることだと思う。

樋口さんによると、実際に減酒外来で受診される方には、興味深い傾向があるという。

受診された人の8割は、何らかのアルコール問題を抱えてはいるが、アルコール依存症と診断されるレベルではなかったそうだ。「受診される方の大半は40~50代で、ほとんどの方が仕事をされていて、家族もいます。そして、大学卒以上が多くを占めるなど高学歴の方が多くいます。このように、通常の依存症の方と異なるプロフィールの方が受診されています」と樋口さんは話す。

そして、「減酒外来を受診される方は、本人が1人で来院されるケースがほとんどです。本人が自分の意志で、電話で予約していらっしゃいます。アルコール依存症の場合、自分が依存症だということを認識しておらず、家族に連れてこられる方がほとんどなので、この差は大きいです。自ら酒量を減らしたいというモチベーションがあるということですから」(樋口さん)

久里浜医療センターの「減酒外来」の受診理由(複数回答可)。その他の項目には、「現在断酒中だが減酒にしたい」「寝酒」「散財」「警察介入」「もの忘れ」「隠れ飲み」「セクハラ」などがある。(データ:久里浜医療センター)

上のグラフは久里浜医療センターの減酒外来を受診した人に、受診した理由を聞いた結果だ。最も多いのがブラックアウト、それに暴言暴力も3番目に多い。「依存症でなくても、酔い方が悪くて、周りに迷惑をかけたり、大きな問題を起こすケースも少なくありません。普段はあまり飲まないけれど、飲むとひどい状況になるという人ですね。中には年に2回しか飲まないのに、飲むと飲酒運転をしてしまうという方もいました。こうした方が受診されるケースが多いです」(樋口さん)

このグラフを見ると、健康を気にして受診する人も多いことが分かる。確かにそれはそうだろう。アルコールの飲み過ぎは健康をむしばむことは言うまでもない。多量の飲酒は命に関わる問題でもある。

私の仕事関係者でアルコール依存症だった人は、自分では依存症という自覚はなく、彼の妻が病院へ連れて行き治療を受けていた。断酒のストレスに耐えられず、再び多量飲酒をしてしまい、帰らぬ人になってしまった。あのとき、もし減酒外来があったら、酒量をうまくコントロールして、今も元気にしていたかもしれない。

■減酒外来の受診で、飲酒量は有意に減少した

では、減酒外来では具体的にどんな治療を行っていくのだろう? そして受診者の飲酒量はどうなったのだろうか。

「最初に家族構成、飲酒歴、また希望するお酒との付き合い方についての質問票に答えていただきます。血液検査、尿検査、骨密度検査をはじめとする身体的な検査も行います。本人の飲酒問題のレベルを判定した上で、今後のお酒との付き合い方を話し合っていきます。酒量は、先に述べたように本人と医師で相談して決めていただきます」(樋口さん)

健康面では適量(アルコール換算で1日20グラム)がベストなのは分かるが、これまでアルコールにして100グラム飲んでいた人が、いきなり20グラムにするのは難しいので、無理のない目標設定が基本となる。

減酒外来を半年間継続した患者の飲酒量の変化を見たところ、初診の3カ月後、6カ月後で飲酒量は有意に減少した。初診時は直近1週間の飲酒量は平均310グラム(アルコール量)だったものが、6カ月後には180グラム程度まで減っている。また、1日60グラム以上飲んだ大量飲酒の日数も有意に減少したという。

◇  ◇  ◇

現在、減酒外来は久里浜医療センターの他、茨城県の北茨城市民病院が開始するなど広がりを見せているものの、残念ながら「身近にある病院で気軽に受診する」という状況には程遠い。ただ樋口さんが言うように、今後、状況は変わっていくだろう。

WHOの2018年の報告によると、毎年300万人もの人がアルコールの有害な使用により亡くなっているという。これは世界の全死亡数の5.3%にあたる。この数パーセントにカウントされないためにも、減酒外来という選択肢があることを心に留めておいてほしい。

次回記事では、「飲酒量を低減する」という新薬について樋口さんに話を聞いていく。

(エッセイスト・酒ジャーナリスト 葉石かおり)

樋口進さん
独立行政法人国立病院機構久里浜医療センター院長。1979年東北大学医学部卒業。慶應義塾大学医学部精神神経科学教室に入局、1982年国立療養所久里浜病院(現・国立病院機構久里浜医療センター)勤務。1988年米国立衛生研究所(NIH)留学。1997年国立療養所久里浜病院に戻り2012年から現職。日本アルコール関連問題学会理事長、WHOアルコール関連問題研究・研修協力センター長、国際アルコール医学生物学会(ISBRA)前理事長。

[日経Gooday2019年6月6日付記事を再構成]

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