向井理さん 「わた定」上司で演じた責任感と受容力
吉高由里子さん主演のドラマ『わたし、定時で帰ります。(わた定)』(TBS系)が好評のうちに最終回を迎えました。ドラマは朱野帰子さんの同名シリーズ小説が原作です。吉高さんが演じる主人公の東山結衣は、ウェブ制作会社「ネットヒーローズ」に勤務する絶対に残業しないと心に決めている会社員。定時に退社するために効率よく仕事を進め、自分の考えだけを他人に押しつけたりもせず、仲間たちからも信頼を得つつ、無理のないスタンスで仕事と向き合っていきます。
2人の対照的な上司たち
そんな結衣の上司として登場するのが、向井理さん演じる結衣の元婚約者でもあった副部長の種田晃太郎と、ユースケ・サンタマリアさんが演じる部下たちを振り回し続ける部長の福永清次です。この2人は、対照的な上司の存在として、ずっと描かれていました。
視聴者からの評判が良かった上司は、種田副部長です。ネット上でも、「種田さん、ほんとにカッコいい。向井さんの当たり役!」「向井理みたいな上司がいたらいろいろうまくいきそう」などの声が上がっていました。種田副部長は、会社内でもかなり有能なスキルを誇り、かつ、さりげない優しさで部下や後輩のフォローに回るなど、チーム内でも圧倒的な信頼を得ている存在です。
この信頼度の高い種田副部長というキャラクターについては、演じた向井さん自身も、リアルサウンドのインタビューで、「晃太郎は、人に押し付けないところがいいですよね。自分は自分の仕事、自分の仕事が終わったら、滞っている仕事……って淡々と取り組んでいく」と、種田副部長という人物像について評価しています。
さらにこのインタビューで、向井さんは「キャラが立ってる役柄のほうが演じるのは難しくなくて。むしろ今回のようないわゆる『普通の人』という役のほうが苦労しますね」とも語っていました。向井さんにとっては、演じるのが難しい役柄だったようですが、視聴者からは「はまり役」という声が数多く上がるほど、イメージにぴったり合っていました。
一方、信用に値しない上司として描かれていたのが、福永部長です。福永部長は、部下たち全員から反対されるなか、自身の立場を良くするためには、赤字必至な案件を通すような管理職。
第9話では、仲間たちにサービス残業を促しているのが福永部長であることを知った結衣が、そのことについて、福永部長に問いただす場面がありました。それに対し、福永部長は「みんな自主的にやりたいって言ってくれてる」とのらりくらりとかわします。
結衣が「都合のいいことを言って、みんなを振り回すのはやめてください。そうやって味方を得たって、本当の信頼は得られないんじゃないですか?」と詰め寄ると、福永部長は「信頼?それって大事?」と、悪びれることのない強い視線で結衣をみつめ返す場面がありました。これに対し、ネット上では、「ユースケにイラつく。ユースケの演技はすごい」「こういう上司は多い」など、視聴者が自身の経験とを照らし合わせながら福永部長の態度と行動に不満を抱いているコメントが並んでいました。
いかに信頼される上司になるか
このような種田副部長と福永部長の対照的な描かれ方、そしてそれを見た視聴者の反応を見ると、仕事での関係性を築く上で重要なキーワードは、やはり「信頼」であることがわかります。種田副部長には、チームや組織のために、部下や仲間たちからの依頼や思いを絶対に裏切らないであろうという圧倒的な信頼感があり、一方の福永部長には、過去の経験から独特の仕事観が生まれてしまった背景があるとはいえ、自分の得になるかならないかで物事を判断し、部下をそのための道具として扱うようなブラックぶりが漂っています。どちらの下で仕事をしたいかと言えば、当然のことながら種田副部長タイプでしょう。
種田副部長が築き上げている「信頼」は、お金やこびによって買えるものではありません。ビジネスにおいても、プライベートにおいても、どのような関係においても「信頼」のある関係を構築することはとても重要であり、難しいものです。信頼関係を構築するためには、まず種田副部長のように、自分に任された仕事や責務を全うする姿勢が大切です。
種田副部長の場合は、ワーカホリック気味のところや没頭しすぎる部分があるものの、部下や仲間にしてみれば、「任された仕事には最後まで責任を持つ。逃げ出さない」という態度が、圧倒的な信頼感につながっていました。同時に種田副部長が仕事に没頭しがちなのは、部下たちの負担を減らすためという理由もありました。
チームや組織全体の循環を常に考える姿勢は、リーダーの必須条件でもあります。
また、信頼関係を構築するためには、お互いの理解を深めることも大切です。
部下の意見や価値観を受け入れられるか
そのためには、自分の非を素直に認める姿勢も必要になってきます。ドラマのなかでも、種田副部長が部下から「有能な自分だけの目線だけで判断しないでほしい、自分の価値観を他人に押し付けないでほしい」と訴えられる場面がありました。それに対し、種田副部長は、一度立ち止まって自分自身を見つめ直した上で、部下をとがめることなく「言われないとわからないから」と優しく受け入れます。
通常は、ある程度のキャリアを積むと、自身の成功体験に裏打ちされた自信も備わり、どうしても自分の判断基準や決めつけで判断してしまうものです。ですが、自分とは別の視点を持った部下や仲間からの意見は、新たな発展性を秘めている可能性があることを種田副部長は理解していました。別の意見や価値観を受け入れる受容力の高さがある上司ほど、部下や仲間からの信頼は厚くなるのではないでしょうか。
強い責任感と高い受容力。言葉にするのは簡単ですが、それを実行できる人はなかなかいません。私生活を犠牲にしすぎた過去もある種田副部長には、少々行き過ぎな面もありましたが、理想の上司であるということと同時に、有能な大人としての必須条件として、種田副部長の強い責任感と高い受容力は見習いたいものです。
経済キャスター、ファイナンシャル・プランナー。日本記者クラブ会員。多様性キャリア研究所副所長。テレビ、ラジオ、各種シンポジウムへの出演のほか、雑誌やWeb(ニュースサイト)にてコラムを連載。主な著書に『デフレ脳からインフレ脳へ』(集英社刊)。株式市況番組『東京マーケットワイド』(東京MX・三重TV・ストックボイス)キャスターとしても活動中。
ワークスタイルや暮らし・家計管理に役立つノウハウなどをまとめています。
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