家事育児NGの「イクジなし夫」 企業からも冷たい目

2019/6/27
イクジなし夫は妻も企業も困る(写真はイメージ=PIXTA)
イクジなし夫は妻も企業も困る(写真はイメージ=PIXTA)

男性に家事・育児の参加を求める声が急速に高まっている。自民党の国会議員らは男性の育児休業義務化を求める議員連盟を立ち上げ、法制化に動き出した。女性に偏る負担を軽減し、少子化に歯止めをかける狙いだ。家事・育児にかかわらない「イクジなし夫」は、なにも家庭内の問題にとどまらない。ワーキングマザーが思うように仕事に打ち込めず、職場の女性活躍を阻むことに。企業も女性社員の夫対策に乗り出した。

■夫に向けた社長からの手紙

「このたびは、お子さまのご誕生、誠におめでとうございます」

出産した女性社員宅にSCSKが送る手紙はこんな書き出しで始まる。ただ、手紙の目的は単なるお祝いではなく、後段に隠れている。

「大切なお子様の成長を支えることと、仕事を通して有意義なご経験を積んでいただくことの両立は、必ずしも容易なことではありません。当社としては最大限の支援をして参りますので、ご家族の皆様におかれましても、これまで以上のご協力を頂戴できればと存じます」

「家族」と表現をぼかしているが、差出人である谷原徹社長が「これまで以上のご協力」を求める本命は、女性社員の夫。妻が子育てとキャリアを両立できるようにしっかり支えてほしい。そんなメッセージを伝えるのが手紙の狙いだ。

SCSKが出産した女性社員宅に送る手紙。夫に家事・育児分担をさりげなく訴える

同社の両立支援は充実している。育児休業は通算3年まで分割取得でき、子どもが小学生のうちは短時間勤務を続けられる。職場復帰に備え保育所に入れる地域に引っ越したら、転居費用を50万円まで補助する。子育て支援に手厚い企業を国が認定する制度では最上位の「プラチナくるみん」に輝いている。すべては出産・子育てを経ても、女性社員に活躍してほしいとの思いから生まれた。

ところが、制度をどんなに拡充しても難攻不落な壁があった。女性社員の夫だ。

「育休や短時間勤務を取るのも、急病などで保育所から呼び出し連絡が入るのも、ほぼ妻。就労意欲が高い女性が増え、『仕事で頑張りたい』と口にする。だけど本人の頑張りだけでは解決できない。夫に家事・育児を相応に担ってもらわなくては」。ダイバーシティ推進課長の酒井裕美さんは強調する。

どうすれば夫にもっと関わってもらえるか? 長らく悩んだ末、2017年に手紙を郵送し始めた。「社員の夫とはいえ、社外の人。『そこまでするのか』と消極的な意見もあった。効果も測定できない。でも、会社が妻の活躍にどれだけ期待しているかというメッセージが夫に届けば、継続的に妻をサポートしてくれると信じている」

■妻の家事・育児の時間は夫の5倍以上

男性が外で働き、女性が家庭を守る。そんな性別役割分担は昔のものとなり、共働き世帯が主流になって久しいのに、いまだ家事・育児分担で夫婦の偏りは著しい。女性の育休取得率が82.2%に対し、男性はわずか6.16%(18年度雇用均等基本調査=速報版)。政府は20年までに男性の育休取得率を13%に引き上げると目標を掲げるが、道のりは遠い。6歳未満の子どもを持つ夫婦の1日当たりの家事・育児関連時間でみても、妻7時間34分に比べ夫は1時間23分と5倍以上の開きがある。世界の中でも夫婦格差は際立っている。

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男性の育休義務化に向けた議員連盟が発足